「世田谷ナンバーvs品川ナンバー」の不毛な闘い。経済効果も何もあったもんじゃない

ナンバープレート これまで東京・世田谷区の住民は自動車に「品川」ナンバーをつけていた。が、11月17日から自動車の「世田谷」ナンバーが導入される。国土交通省が地域振興の一環として06年に始めた「ご当地ナンバー」の一つだ。ところが、導入に反対してきた区民132人が、10月28日に保坂展人区長と区に対して損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こすという事態に。賠償額は原告1人につき1円で、これは金銭が目的ではなく導入経緯を明らかにするためだからだそうだが、それはともかく、釈然としないのが原告側の挙げる提訴理由だ。  原告側を代表して記者会見を行った田中優子区議によれば、「居住地を特定されることでプライバシーや平穏な生活が侵害される」というが、世田谷区は23区最多の約90万人の人口を抱える“大都市”だ。登録車両がずっと少ないナンバーはいくらでもある(ちなみに鳥取県の人口は58万人)。ナンバープレートに自宅住所を載せろというならまだしも、世田谷ナンバーになったからといって個人情報云々の話を持ち出すのは、ちょっと無理筋だろう。それを言うなら品川ナンバーだって城南地域に住んでいることを特定しているし、もっと言えば自動車ナンバー自体がプライバシー侵害になってしまう。  また、導入申請にあたって実施された区民対象のアンケートで不正が行われたとも主張し、一例として回答者の年齢構成が実際の人口比と隔たりがあるとするのだが、得てして若い世代は区行政に関心が薄く、区役所のアンケートなんて面倒で回答しないもの。それをもって不正とまで言えるのかどうか。

品川ナンバーの利益って何?

 まあ、プライバシーや民主主義といったそれらしいお題目を並べてはいるが、本音のところはもう一つに挙げた理由、つまり「ブランド力がある品川ナンバーを使えなくなる不利益」という一点が、彼らにとって最も重要なのではないか? ご存知のように、23区内のナンバーにおいて“品川>練馬>足立”という暗黙のヒエラルキーがあるのは事実。とりわけ品川は別格で、品川ナンバーを取得したいがために違法な“車庫飛ばし”をするユーザーもいるほどだ。世田谷区とは対照的に、同時期に導入される「杉並」ナンバーについて、「練馬」ナンバーを失う杉並区民が何にも言わないのも、つまりはそういうことだろう。  しかし、品川ナンバーでなくなることで、生活上何か不利益が生じるものなの? もし自動車ナンバーの頂点に君臨する品川ナンバーをつけることで得られる優越感を失うことが不利益なのだとしたら、何ともさもしい話ではないか。ネット上などで支持する声がほとんど聞きかれないのも、それを見透かされているからだろう。  一方で、推進派が謳う経済効果にしても、「富士山」などの観光地のご当地ナンバーと違って、今以上に下北沢や三軒茶屋に人が集まるようになるかは疑問だし、ましてや区内のシャッター商店街に人が押し寄せるようになるとはとても思えない。彼らも「世田谷」に過度な期待を寄せているフシはある。  “世田谷”のブランド力に自信満々な人たちと、品川ナンバーにブランド価値を見出す人たち。要するにどちらによりブランド力があるのかという“ブランド信奉者”同士のいがみ合いといったところではないか。 「面倒な変更手続きがないなら、品川でも世田谷でもどっちでもいいですよ」(世田谷区在住の主婦) おそらく9割方の世田谷区民はそう思っているに違いない。<取材・文/杉山大樹>