【雇われない生き方】農業人口激減の中、前年比10%増の売り上げを課される農業機器営業マンの苦悩

経済成長イデオロギーから抜け出せば、選択肢は山ほどある

年々増えていく耕作放棄地。放棄された期間が経過すればするほど、農地としての復元が困難になっていく

 私もAさんも、雇われるために生まれたわけでも、消費するために生まれたわけでもない。もうそろそろ、経済成長イデオロギーから脱出したほうがいい。  でも、どうやって?  ほんの半世紀前までは5割の人が雇われずに生きていた。150年前まで遡れば、9割もの人が雇われていなかった。歴史からすると、サラリーマンが9割という今の世の中のほうが、実は異常な状態なのではないか。誰もが家族が食べる分くらいのお米や野菜を自給したり、必要なものは自然界から材料を調達して自分でこしらえたり、生業(ナリワイ)や小商いで日々の暮らしのお金を稼いで暮らしていた。  そうした歴史上でつないできた生き方を、現代の利便性を生かしながら取り入れれば、雇われずに生きられる選択肢が広がる。生業(ナリワイ)を起こす、半自給する、DIY(Do it yourself の略:自分で様々なものを作ること)を増やす、田舎へ移住する……など。上を目指すこと以外にも選択肢があると知るなら、裾野には着地点が山ほどある。「お金をより多く稼いでいつか悠々自適な暮らしを!」と妄想するより、よっぽど安心と幸せへの近道になる。  その後、Aさんは休職期間を利用して実家に戻り、定年退職したばかりの父親と畑作業を始めた。周りには休耕田もたくさんある。 「我慢を重ね、成長し続ければならないと思っていましたが、今は新しい生き方を探しています。ナリワイを起こし、自給しながら、日々幸せを感じて生きていきたいんです。東京に戻ったら会社に辞表を出して、過疎化が進む地元に移住者を呼び込むような何かができたら、と考え始めているところです」(同)  Aさんの心に芽吹き始めた希望は、きっと実りになることだろう。今、地方移住した若者たちによって、疲弊した日本中の地域が新しく生まれ変わり始めている。 <文/髙坂勝 写真/北村土龍> 【髙坂勝】 1970年生まれ。30歳で大手企業を退社、1人で営む小さなオーガニックバーを12年前に開店。著書に『減速して自由に生きる ダウンシフターズ』(ちくま文庫)など。新著『次の時代を、先に生きる ~ まだ成長しなければ、ダメだと思っている君へ』(ワニブックス)を10月26日に上梓。http://umininaru.raindrop.jp/masarukohsaka
30歳で脱サラ。国内国外をさすらったのち、池袋の片隅で1人営むOrganic Bar「たまにはTSUKIでも眺めましょ」(通称:たまTSUKI) を週4営業、世間からは「退職者量産Bar」と呼ばれる。休みの日には千葉県匝瑳市で NPO「SOSA PROJECT」を創設して米作りや移住斡旋など地域おこしに取り組む。Barはオリンピックを前に15年目に「卒」業。現在は匝瑳市から「ナリワイ」「半農半X」「脱会社・脱消費・脱東京」「脱・経済成長」をテーマに活動する。(株)Re代表、関東学院経済学部非常勤講師、著書に『次の時代を先に生きる』『減速して自由に生きる』(ともにちくま文庫)など。
1
2
3
次の時代を、先に生きる。―まだ成長しなければ、ダメだと思っている君へ

新たな経済と人生の教科書となる1冊

減速して自由に生きる:ダウンシフターズ

システムから降りて好きなことをしても大丈夫!