3度のテレビ討論に挑んだヒラリーは、初めは目の覚めるような赤、次に深い青、そして最後に輝くような白のパンツスーツを勝負服に選びました。赤・青・白は、いうまでもなく米国旗の3色です。ヒラリーは「勇気の赤」「正義の青」「純粋の白」をまとうことで、愛国心を示してみせました。
ヒラリーが最後の大舞台での装いに白を選んだのには、もう一つの理由があります。7月の民主党全国大会で、史上初の女性大統領候補として指名受諾演説を行った際にも、ヒラリーは純白のスーツを着ていました。19~20世紀の婦人参政権論者たちが全身白ずくめの服装で活動したことから、白は「フェミニストのシンボル・カラー」と呼ばれています。ヒラリーは白一色の衣装を通して、女性の権利拡大を求めて闘った先人たちに敬意を表したのです。
米国で女性に参政権が認められたのは、1920年のことです。それから100年近い月日が経ち、遂に女性が大統領の座に王手をかけるまでになりました。ヒラリーの白いパンツスーツは、女性たちがようやく勝ち得た参政権を無駄にしないよう、「投票に行きましょう」との声なき呼び掛けだったのかもしれません。
<取材・文/羽田夏子 写真/
Keith Kissel>
●はだ・なつこ/1984年東京生まれ。高校から米国に留学。ヒラリー・クリントンの母校であるウェルズリー大学を卒業後、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科にて国際関係学修士を取得。国連機関インターン、出版社勤務を経て、翻訳編集プロダクションを立ち上げる。日本メンサ会員。