討論の終盤で、ヒラリーは、元ミス・ユニバースのアリシア・マチャドに対するトランプの侮辱発言を取り上げて、敵をうろたえさせました。かつてトランプは体重が増えたアリシアを「メス豚」、また彼女がラテン系であることから「家政婦」と呼んでいたのです。トランプの性差別・人種差別・階級差別を暴き立てるのに充分なエピソードでした。
女性差別者というイメージが決定づけられてしまったトランプですが、次回の討論会では、ビル・クリントンの女性問題を種にヒラリーを攻撃すると予告しています。ヒラリーの夫ビルは、大統領在任中に「不適切な関係」にあったと認めたモニカ・ルインスキー以外にも、多くの女性スキャンダルを指摘されています。そして不貞な夫をかばい、許し、今なお結婚生活を続けるヒラリーにも、批判の矛先は向けられてきました。ただし、女性問題を俎上に乗せれば、3度の結婚歴のあるトランプ自身も無傷ではいられないでしょう。ビルの不倫の最大の被害者であるヒラリーに連帯責任を負わせる前に、自らの首を絞めることになりかねません。
大統領選挙にまつわる、一つの興味深い統計があります。「2組のうち1組は離婚する」といわれる離婚大国・アメリカでも、離婚歴のある大統領は過去43人中ただ1人、ロナルド・レーガンしかいないのです。
離婚経験者が大統領選に出馬しないわけではありません。過去20年の大統領選に出馬して敗れた5人の最終候補の内、最初の結婚を維持しているのはモルモン教徒のミット・ロムニーだけです。ボブ・ドール、ジョン・ケリー、ジョン・マケインの3人は離婚経験者、アル・ゴアは結婚生活の破綻を公言しています。
「離婚すると大統領になれない」というジンクスを、3度の結婚を繰り返しているトランプが破れるのでしょうか。初の直接対決ではヒラリーにリードを許したトランプ陣営が、今後どのように巻き返しを図るのか。10月9日の第2回テレビ討論会が待たれます。
<取材・文/羽田夏子 写真/
Veni>
●はだ・なつこ/1984年東京生まれ。高校から米国に留学。ヒラリー・クリントンの母校であるウェルズリー大学を卒業後、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科にて国際関係学修士を取得。国連機関インターン、出版社勤務を経て、翻訳編集プロダクションを立ち上げる。日本メンサ会員。