⇒【画像】はコチラ http://hbol.jp/?attachment_id=112027
火星へ向けて飛行する惑星間輸送システム Image Credit: SpaceX
低コストでロケットに、宇宙から帰ってくるロケットと、これまでいくつもの不可能を可能にしたマスク氏だが、今回の構想ばかりはあまりにも気宇壮大で、到底実現しそうにないと思われたかもしれない。実際のところそれは正しく、専門家の中でこのとおりに実現可能だと考える者はいないし、マスク氏も「2024年からの移民開始というのは楽観的な予想です。あくまで可能性に基づく抱負の話です」と語る。
しかし、まったく実現不可能な夢物語かといえばそうでもない。少なくともこれまで示されていた、あらゆる有人火星飛行の構想に比べれば十分に現実的で、2024年からというスケジュールを除けば、実現する可能性はある。
たとえば巨大ロケットや宇宙船に使うエンジンはすでに試験が始まっており、機体の製造に必要な技術もできつつある。ロケットには42基ものロケット・エンジンが装備されるが、その制御に必要な技術も開発が進んでいる。
火星までの飛行は2018年に無人の宇宙船を打ち上げて試験を行うし、火星の大気圏に突入し着陸する技術もそのときに実証が行われる。また大気圏突入は、すでにスペースXは無人の補給船による宇宙から地球大気圏への再突入で経験がある。火星での推進剤の生成はただの化学反応である。
火星に降り立った人類 Image Credit: SpaceX
つまり今回発表された構想は、すべてスペースXがすでに保有しているか、あるいは近いうちに習得することになっている技術の延長線上にある。言い換えれば、スペースXはこの構想で描かれている未来に向けて、これまで着々と布石を打ってきたということでもある。
もちろん、問題はまだまだ残っている。宇宙船の中に100人もの一般人が乗ることによる医学の問題、万が一死亡事故が発生した場合の責任や倫理的な問題、火星の土地の権利や法律の問題、まだ科学的に謎が多く残る火星を人間活動で汚染する問題など、挙げ始めるときりがない。
しかし、今回のマスク氏の発表は確実に、火星へ、そしてその先へと続く道に明かりを灯した。多くの科学者や技術者をはじめ、他分野の専門家、さらに子どもたちの心を揺り動かしたことは間違いない。それは火星へ続く道を塞いでいる多くの問題を解決し、誰もが通れる道にするための原動力となるだろう。
<文/鳥嶋真也>
とりしま・しんや●宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。
Webサイト:
http://kosmograd.info/about/
【参考】
・Mars | SpaceX(
http://www.spacex.com/mars)
・
http://www.spacex.com/sites/spacex/files/mars_presentation.pdf
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。
著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。
Webサイト:
КОСМОГРАД
Twitter:
@Kosmograd_Info