3Dプリンター、懸念される「ドラッグの自作」

 2014年5月8日、3Dプリンターで拳銃を作成した男性が逮捕された。海外のサイトから銃の設計図のデータをダウンロードし、自作で組み立てる3Dプリンターで作成したという。事件を受け、さっそく古屋国家公安委員長は「ルール上の問題、法制上の問題も含めて対応していく必要がある」と、3Dプリンターの所持に一定の規制を設けるべきか検討すると発言。「世紀の発明」としてイノベーションが期待されていただけに、産業界からは落胆の声が聞かれ、規制派と規制慎重派が熱い議論を交わしている。  しかし、3Dプリンターが犯罪に利用されるのは銃だけではない。アメリカ在住の日本人化学者は言う。 「欧米では銃と並び、もっとも警戒されているのが薬物の自作です。2012年頃から、欧米の大学では、3Dプリンターを使った薬品の製造実験が行われており、すでに成功している例もあります。英グラスゴー大学のリー・クローニン教授が率いる研究グループでは、分子レベルで成分を“プリント”し、実際に医薬品を作る計画を進めています。彼は3Dプリンターで鎮痛剤のイブプロフェンを作ることにすでに成功しています。医薬品の流通事情が悪い途上国での利用を想定していますが、医薬品のレシピさえわかれば、理論的、自宅で薬を作ることもできるようになる。これは医学界にとって革命的な技術ですが、アメリカの大手製薬会社などは猛反発しており、米FDAも規制すべきか、認定すべきか議論しているようです」  ここで問題になってくるのが、違法薬物、つまりドラッグの“自作”である。資金力のある犯罪組織が、3Dプリンターを使って大量の違法薬物を大量生産することがすでに予想されており、欧米のメディアではメキシコの麻薬カルテルがその可能性について研究を開始していると報じられている。 「ドラッグの場合、作用する成分さえ入っていればよいので、医薬品よりも簡単に製造できるのではないか」と前出の化学者は言う。作用成分さえあれば、あとはデンプンなどの賦形剤、セルロースなどの結合剤などがあれば作れるので、従来の工場のような規模の製造拠点を必要としない。アメリカの3Dプリンター関連情報サイト「3D PRINTING.com」では、MDMAなどデザイナードラッグ、コカイン、LSDなどは3Dプリンターで作るのにもっとも適していると報じている。  一方、違法薬物以外にも、ニセ薬の流通の懸念もある。中国やインドでは、ニセ薬の製造が一大産業となっており、主にアフリカなど途上国に流通して数々の健康被害が報告されているのだ。3Dプリンターの普及で、こうしたニセ薬の流通が拡大する恐れもある。  3Dプリンターは実用化が始まったばかり。業界の革新的な試みを阻害する単純な規制は言語道断だが、犯罪に悪用されないような国際的な仕組みの策定も必要になってくるのはたしかだろう。 <文/HBO取材班>