外食産業の苦境が言われる中、なぜ安居酒屋は次々現れるのか?

低品質な居酒屋が現れては消えていくメカニズム

 また、消費者の嗜好も変化し、経済的に苦しい若者は発泡酒、第三のビールへと移行している。働く世代は子育てにお金がかかり、共働きなどで夜、居酒屋で飲み歩く暇もお金もない。そして消費性向の高いシニアや働く女性も世代とともに交流の輪が狭まり、居酒屋で集まるよりは、シニアは早起きして喫茶店で井戸端会議の方向へとシフトしている。働く女性は、外食するときは、奮発、ワインバルなどオシャレな店など消費にメリハリをつけている。このように、既存の居酒屋チェーンを巡る状況は悪くなる一方である。  そのような背景があるため、居酒屋業界で生き残るためには、「テーマ性を持っていること」、「特色をしっかりと出していること」、「本物志向であること」が重要だと言われている。しかしそれと同時に、アルコール党の人たちにお酒を安く提供することも求められているといった、板挟みの状況がある。  前者の方向性で生き残れる店はいいのだが、そうでない店は結局後者の道を選ばざるを得なくなり、ずさんな管理の元でまずい酒を出す店が増えるのである。  しかし、このように困難な状況にあるにも関わらず、なぜ格安居酒屋などの出店は跡を絶たないのだろうか?  それには、飲食店が、金融機関にとってはカネを貸しやすい業種の一つだということが挙げられる。第一に開業資金を除けば日銭を稼ぐことで銀行返済が可能である点が一つ。さらにチェーン店の場合、拡大を繰り返すごとに資金を調達してくれるので銀行にとっては「いいお客様」でもある。また、中小零細の飲食店などは、最悪の場合商工ローン等からも融資を受けても続けるため、過当競争が終わる気配はない。さらに、内需減少・デフレ経済の中で、信用保証協会という実質的な政府保証をつけることで金融機関はリスク融資が可能になるため、外食産業はゾンビになってもつぶれにくい、淘汰されにくいのだ。  こうした構造的な要因をどうにかしないかぎり、本物志向やテーマ性の実現をできない飲食店が安易なディスカウントに走り、ブラックな労働環境の店や「まずい酒」を出す店が、できては潰れを繰り返すという状況は変わらないのではないか。 <文/平野和之 写真/足成> 【平野和之】 経済評論家。法政大学卒。上場企業に勤務ののち、各メディアでの執筆、出演、講演、投資コンサルティングなどを行っている。http://www.hirano.cn/
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