近年、頻繁に耳にするようになったアルゴリズムという言葉の真意もなかなかピンとこないのが実情だろう。過去のデータをつぶさに解析して最適な取引パターンを見つけ出し、それを機械的に執行するというものだ。西村氏はさらに説明を続ける。
「AIもしょせんは人間が組んだプログラムであり、自ら学習を繰り返すとはいえ、日を追うごとに新たなデータを交えて再検証を行っているにすぎません。その意味では、過去のデータから最適なパターンを導き出して運用しているアルゴリズムとさほど大きな違いがないわけです。強いて言えば、アルゴリズムの多くはスキャルピングのような超短期売買を仕掛けるプログラミングになっているのに対し、AI運用のほうは比較的長いスパンの売買が中心となっているようです」
とはいえ、言葉の響きが斬新なせいか、国内でもAIが運用する投資信託が設定されるなど、にわかにブーム化しつつある兆しもうかがえる。それでも西村氏は過剰に期待すべきではないと指摘する。AI運用には「過剰最適化」という落とし穴にはまりかねないという致命的な弱点があるからだ。
「検証期間中における最安値で買って最高値で売り抜けるという非現実的なケースを最善策と判定し、そのパターンに基づいた売買ルールを作ってしまうのです。しかも、将来もその最高値や最安値の水準でピタリと流れが反転するとは限りません」(西村氏)
SBI証券の株式アナリストで電子工学科出身の藤本誠之氏も、AI運用と名の付く金融商品には慎重な姿勢を崩さない。
「本当にいつでもとことん儲かるパターンを解明できるAIを開発できたとしたら、投資信託などを通じて一般の投資家に広く提供するよりも、その金融機関の自己売買部門だけで独占活用したほうがはるかに儲かるはず」
実は、AI運用投信の前身とも言えるものがすでに存在しており、足元では意外に苦戦中だ。マネックス証券などが販売する「日本株ロボット運用投信」がそれで、投資信託協会のデータによれば、過去5年間における同じカテゴリー内の投信の平均リターンが82%超であるのに対し、わずか9%弱に甘んじている。
⇒【資料】はコチラ http://hbol.jp/?attachment_id=106090
「AIの学習がコンスタントに的確であったことが立証されたとしても、おそらくそれは何年も先の話になるでしょう。AI運用の商品を選ぶとしても、それなりに実績を残したうえで判断したほうが無難です。高実績を記録するAI運用も出てくるでしょうが、その手法は未来永劫にわたって通用するわけではないことも知っておくべき。過去の相場で有効であっても、将来の相場でもつねにそうであるとは限らないのが投資の世界なのです」(藤本氏)
非常に有効な手法が見つかれば、おのずと誰もが同じことをやり始める。すると、相場の動きに変化が生じてしまい、そのパターンが当てはまらなくなってしまうのだ。こうしたことから、システムトレードを手掛けているトレーダーたちも必要に応じてストラテジー(投資戦略)の修正を行っている。
「AIのように最適化を追求するケースよりも、もっとザックリとしたルールに基づくシステムトレードのほうが利益を狙いやすいのが現実。たとえば、3日連続でストップ安を記録した銘柄に買いを入れるパターンなら、60~70%台の確率でヒットします。売りが一巡し、相場の需給関係が改善してくるからです。もちろん、暴落後のリバウンド狙いなど、局地的に通用するAI運用はあるでしょうが……」(西村氏)
頭からAIを否定する必要はないにせよ、その近未来的なイメージに惑わされて過信することは禁物だろう。
【西村剛氏】
フェアトレード代表取締役社長。システムトレードの開発や投資情報の提供を手掛ける。短期急騰銘柄を言い当てる夕刊フジの「株1グランプリ」グランドチャンピオン大会で3連覇の偉業を達成したことでも知られる
【藤本誠之氏】
SBI証券シニアマーケットアナリスト。的確な銘柄選びと歯に衣着せない本音トークが好評で、「相場の福の神」との異名も。関西大学卒業後、日興(現日興SMBC)、マネックス証券などを経て現職に。Allaboutにて「株式ガイド」執筆中
【北澤直氏】
お金のデザインCOO。’75年生まれ。慶応義塾大学法学部卒業。ペンシルベニア大学大学院修了。モルガン・スタンレー証券に6年間在籍。以前は弁護士として、日本とニューヨークで金融・不動産関連の法律業務を手掛ける
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