「ピラミッドの頂上で振袖を着て、お茶をたててやろう」
かくしてカイロ大学卒業年度の最終試験に合格した小池は、最後の「頂上」征服を敢行する。それは、ピラミッド登頂。このとき小池の中では、ピラミッドが宝の山のように輝き始め、“みんなのしないことをしたい魂”が炸裂するのである。
「どうせ登るなら日本人らしく登りたい、よし、頂上で着物を着て、登る太陽を背にしてお茶をたててやろう!」
小池は即席でカメラマンと頂上で着る着物を詰めたかばんを運ぶポーターとして、日本人2名を雇う。ギャラは、“朝食をおごる”ことだったそうだ。
そして、すぐに朝日を背景に早朝5時から出発した……と、書けばかっこいいが、実のところは登頂禁止のピラミッド警備員がまだ寝ているうちに登ってしまおうという魂胆だったのだ。小池はもちろん、クフ王によって建造された第一ピラミッドにアタックする。
本人の名誉の為に説明すると、当時はもちろん、その前からそしてその後しばらくも、ポリスに捕まった場合の賄賂だけ握りしめてピラミッドに登るのは、世界中から集まるバックパッカーにとってはごく自然な流れであった。まだ通常の観光客やハネムーナーでも登る者もいた緩い時代。また、どの人が本当の警官で、誰が便乗のニセ警官かも外国人にとっては判別がつかないという何ともエジプトらしい状況だったのだ。