ミスを白状できなくて毎日が辛い――石原壮一郎の【名言に訊け】
2014.10.10
Q:数日前、大事な書類をうっかりシュレッダーにかけてしまいました。「あっ!」と気づいたときには、もう手遅れ。上司や同僚が「あの書類はどこだ!?」と血相を変えて探していましたが、言い出せませんでした。そのことが原因で得意先を怒らせたりして、いろいろたいへんだったようです。このまま黙っていればバレないかもしれませんが、毎日がかなり辛いです。どうすればいいでしょうか?(東京都・29歳男・営業職)
A:それは苦しいですね。もちろん、このまま胸にしまっておくというのも、それはそれでひとつの選択です。時間がたてば、少しずつ苦しみはやわらいでいくでしょう。ただし、ミスを白状しないで隠し通すというのは、端的に言うと「嘘をつく」ことになります。苦しみが完全に消えることはないし、後ろめたさや苦さをごまかすための手間が必要になってくるかもしれません。嘘が癖になるという可能性も大いにあります。
今の時点であなたが選べる道は、ミスを白状するか隠し通すかのどちらか。まずは、それぞれを選んだときの「最悪の事態」を想像してみましょう。隠し通した場合は、上に書いたようなことや、もしかしたら何かの拍子にバレて強く非難されるリスクもあります。白状した場合は、怒られるのは仕方ありませんが、逆に得られるものも多いでしょう。ま、会社をクビになる可能性が高いとしたら、そう簡単には白状できませんけど。
ただ、あなたはこうして迷っているし、苦しんでいます。漫画『ぼのぼの』の中でシマリスくんは、おとうさんの大切なものをなくしてしまったぼのぼのに、こう言いました。
「正直に言うと決めれば地獄は終わるのでぃす」
とりあえずは、正直に言うと決めて、今の地獄を終わらせてみてはどうでしょう。「どうしようか迷っている状態」というのは、苦しいわりには不毛な地獄です。その地獄の過酷さに比べたら、そのあとに起きることはどうにか乗り越えられるはず。「ああ、もうどうしようもない……」と絶望する必要はありません。シマリスくんのお父さんも言っています。
「この世にどうしようもないことなんてないんだよ」
どうにかなると腹をくくるのが大人の覚悟であり、どうにかできると信じて自分が胸を張れるほうの道を選ぶのが、結局は後悔を最小限に抑える大人としての賢明な判断です。
「ど、どうしよう……」と漠然と迷っているうちは、不安や恐怖がふくらむばかり。そんなときは、目の前にある選択肢ごとに「最悪の事態」を想像してみましょう。先が見えたり覚悟ができたりして、不安や恐怖の無限地獄から抜け出すきっかけになるはずです。
<文/石原壮一郎>
いしはら・そういちろう/フリーライター、コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。以来、さまざまなメディアで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』(文春文庫PLUS)、『大人の当たり前メソッド』(成美文庫)など著書多数。近年は地元の名物である伊勢うどんを精力的に応援。2013年には「伊勢うどん大使」に就任し、世界初の伊勢うどん本『食べるパワースポット[伊勢うどん]全国制覇への道』(扶桑社)も上梓。最新刊は、定番の悩みにさまざまな賢人が答える画期的な一冊『日本人の人生相談』(ワニブックス)
【今回の大人メソッド】「最悪の事態」を想像することが地獄から抜け出す近道
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