KSLV-II打ち上げの想像図 Photo by KARI
予算も時間も足らない中で、なぜこれほどまで韓国は焦っているのか。その理由のひとつには北朝鮮への対抗意識があることは間違いない。北朝鮮は、曲がりなりにも自主開発したロケットを使い、人工衛星の打ち上げに2回成功している。ただし人工衛星の技術はまだ未熟なようで、機能していないようであり、この点は羅老号や他国のロケットで打ち上げられた韓国製の衛星がしっかり機能している分、韓国に一日の長がある。とはいえ、羅老号を手放した今、韓国は自力で衛星を打ち上げる手段をもっていないため、KSLV-IIの完成を急ぐ気持ちはわからないでもない。
そしておそらく最大の理由は、大統領の意向であろう。そもそも現在の計画は、他ならぬ朴大統領が、当初の計画を前倒ししてまで、2020年に月に太極旗をはためかせると公約に記したところからはじまっているため、安易な計画の修正は体面にかかわる。
また、KSLV-IIの最初の試験打ち上げが2017年12月に行われることが決まっているのも、このときに行われる次期大統領選挙と関係があるだろう。韓国の大統領の任期は5年で、また再選は禁止されているため、次期選挙に朴大統領が出ることはないが、退任直前の2017年12月にKSLV-IIの試験打ち上げを行うことで、それまでの実績を印象付けたい狙いがあると考えられる。
しかし、お金とスケジュールの両方で無理をして成功したロケットは、古今東西、例を見ない。とくにロケットは、完成さえすれば韓国の宇宙開発における自立化につながるだけでなく、商業打ち上げ市場への参入や、より大型のロケット開発への道が広がるだけに、ここは慎重に時間をかけて育てていくべきではないか。
今後、この無理のあると思われるスケジュールのまま計画が進むのか、それともどこかで是正されるのか。そして期限どおり、あるいは遅れながらも完成するのか、それとも破綻するのか。今後の動向に注目したい。
<文/鳥嶋真也>
とりしま・しんや●宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。
Webサイト:
http://kosmograd.info/about/
【参考】
・한국형발사체의 ‘심장’이 뛴다 «(
http://blog.kari.re.kr/?p=224)
・韓国型ロケットのエンジン試験設備竣工…試験設備9割完了 | Joongang Ilbo | 中央日報(
http://japanese.joins.com/article/348/209348.html)
・セヌリ党の「半分の真実」月探査公約、「二番煎じ」「無賃乗車」=韓国(1) | Joongang Ilbo | 中央日報(
http://japanese.joins.com/article/793/213793.html)
・韓経:「韓国型75トン級液体エンジンを初めて組立…月探査船打ち上げの日も遠くない」 | Joongang Ilbo | 中央日報(
http://japanese.joins.com/article/475/213475.html)
・韓国型発射体、2017年末に試験打ち上げ予定 「順調に進んでいる」 | Joongang Ilbo | 中央日報(
http://japanese.joins.com/article/510/211510.html)