ロンドンに誕生した「イスラム教徒市長」が投じた一石

WPA Pool/Getty Images

 先日行われたロンドン市長選では、庶民派アピールと少数派への理解を示した移民2世のサディク・カーン氏が、若く多様な現在のロンドン市民の心を掴み新市長となった。前回はその勝因を選挙戦の経緯から分析したが、当選はゴールではなく市長としてのスタートラインにすぎない。選挙の結果に対するロンドン市内の世論が概ね好意的であることは前回の記事でも述べたが、もちろん全ての市民がカーン氏支持だったわけではない。彼らの反応はどのようなものなのだろうか。  前回の記事ではロンドンの若い世代がいかに多文化社会に適応しているかについて触れたが、多様化や移民の増加には摩擦もつきものだ。特にそれは英国民としてのアイデンティティが芽生える移民2世や3世に比べ、現地の文化に馴染みにくい移民1世の世代に顕著だと言える。移民の多くは先に移り住んできている他の移民を頼ってくるため、地域ごとにそれぞれのコミュニティを築いて暮らすことが多く、それは街の風景や雰囲気を変えていく。実際ロンドンの様々な地域を巡ってみると、カレー屋の客引きが道に溢れる通りや、レゲエが流れジャークチキンの屋台が並ぶエリアなど、場所によってはまるでロンドンにいながら異国のような雰囲気の地域が多数あることに気づくだろう。好奇心溢れる若者たちの目には多文化が交わり活気に溢れる、と映るこうした風景も、移民2世や3世との接触が少なく、移民が今ほど増える前のロンドンを懐かしく覚える中高年層にとっては、戸惑いを覚えるものでもあるようだ。
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35歳を境に増える「移民への壁」
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