日本のポップカルチャーの海外展開――その課題と未来
2014.10.14
9月25日、日本の文化や商品を売り込む官民ファンドの海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)が4つの投資案件を発表した。クアラルンプールの百貨店改装や、ベトナムにおける冷凍食品の流通拡大など様々な分野へ投資が行われる。メディア・コンテンツ分野では、日本のポップカルチャーの商品や情報を海外に展開するTokyo Otaku Mode Inc.(以下、TOM)に、今後3年間で最大15億円の投資が行われる。その発表会見にはCEO亀井智英氏とCFO小高奈皇光氏の姿があった。
TOMは日本のアニメや漫画に対する海外のニーズをいち早く捉え、政府主導のクールジャパン政策が掲げる「日本の魅力の海外への事業展開」を実践し、大型の資金調達に成功した。実は今年8月収益の40%強を占める北米に商品倉庫を設置、商品獲得や配送拠点の拡大に着手している。今後は約3兆円といわれるエンタメ・キャラクター分野の世界市場で、先行して活躍する「グッドスマイルカンパニー」ら国内企業らとともに、市場開拓の先陣を担うことが期待される。
ただし、日本のコンテンツ産業に対するニーズが、今後どれほど拡大するのかは未知数の部分もある。例えばGDP水準の低い国々は、クレジットカードなど決済システムが乏しい。そうした環境下でEC事業を展開するのは時期尚早という見方もある。
日本のポップカルチャーを海外展開するにあたっての課題は、ほかにもある。Web上に違法アップロードされる動画や、海外で売られる海賊版商品をどうするか。クリエイティブ環境に目を向けると、活躍するクリエイターの労働環境や報酬体系の確立も必要だ。製作委員会方式による複数プレイヤーの版権の持ち合いシステムなどは、海外展開時の交渉などが複雑化するリスクもある。
亀井氏は会見で、「我々が提供するのはあくまでアニメや漫画などに関連したコンテンツが楽しめる場所。これから先は、メーカー企業のさらなる協力が不可欠」とアニメ・漫画業界の企業に“共闘”を呼びかけたことから伺えるように、業界全体で取り組まなければならない課題もある。
「クールジャパン」は日本の先行きをも左右する一大事業だ。官、民問わず、海外展開できるポップカルチャーへの期待は大きい。日本のコンテンツは、国外から収益を獲得する力が本当に備わっているのか――。クールジャパン事業の柱を託されたTOMの冒険は、それを見定める一つの試金石となりそうだ。
<取材・文/石田恒二>
― 「Tokyo Otaku Mode」はコンテンツ産業の救世主となるか?【3】 ―
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