加藤紘一は自社さ連立政権を支え続ける権力側の人間として、山の頂に立っていた。時折、山の頂に立つ加藤紘一の足元にかじりつく、「何か」がいる。この「何か」は、加藤や野中広務、河野洋平や古賀誠……と、山の頂にいる当時の自民党有力者たちを次々と引きずり下ろしてきた。
山の頂で権力を支えている加藤は、山の裾野の景色が良く見えた。この「何か」がどこからやってくるのか?と裾野を見渡した時、加藤はこの不思議な「何か」が、「日本会議」――「一群の人々」の「巣穴」――からやってくることに気づいたのだ。
魚住、俵、上杉、堀、猪野などの先達たちは、山の下から。
加藤紘一は、山の上から。
それぞれ同じ巣穴を見つけた。
そして、立場も興味もキャリアも思想も全く違うこれらの人々は、この巣穴に棲む「何か」に警鐘を鳴らしたのだ。
その警鐘はむなしく響くだけだった。
魚住の偉大な仕事は、「週刊誌ネタでしかない」と一蹴され、俵の膨大な仕事は、「どうせ共産党でしょ」と相手にされず、上杉の実直な仕事は「政治運動の一環でしかない」と取り上げられず、堀の広範囲な仕事は、「学者じゃないから意味がない」と忘却され、猪野の洗練された仕事は「アングラネタだ」と嘲笑された。
そして、加藤の叫びさえも、「オワコン政治家の虚しい戯言」と一顧だにされなかった。僕の仕事は、こうした偉大な先輩たちが残した、「叫び声」を拾い集めただけに過ぎない。
そして今、誰よりも早く誰よりも克明に、あの「何か」の危険性に気づいた加藤紘一が、今、死のうとしている。
「加藤さん、僕にはあなたの鳴らす警鐘が聞こえましたよ。しっかり聞こえましたよ。」と、報告したかった。
加藤さん、僕の仕事が遅くてすみませんでした。もっと早くやるべきだった。本当にごめんなさい。
<文/菅野完(Twitter ID:
@noiehoie)>
※菅野完氏の連載、「草の根保守の蠢動」が待望の書籍化。連載時原稿に加筆し、
『日本会議の研究』として扶桑社新書より発売中