ここまで早くマルティネス議員とFpVが時を移さず早速マクリ大統領への起訴を訴えた背景には、上記のようなフェルナンデス前大統領が立たされている状況がある。実は彼女も親友の資金洗浄疑惑などについて法廷で証言することになっているのだ。先述した二つの事件について、彼女にメディアから注目が集まる度合を軽減させる狙いもあってマクリ大統領への起訴を早速要求したようだと「
El Mundo」は報じている。
前出の「
El Mundo」同様、メディアはまだそこまで熱狂的にマクリ大統領批判には走っていない。アルゼンチンの電子紙『
Pagina12』は、汚職取締局が〈タックスヘイブンにオフショア企業をもつことは犯罪ではない〉と述べて、マクリ大統領を庇う姿勢を表明しているほどだ。
しかし、貧困者ゼロをスローガンに掲げて選挙に臨んだマクリ大統領であるが、就任後、「前政権の実質物価を無視した、例えば公共料金の極度の低料金での提供で政府の財政負担が大きくなっているのを軽減するため」とはいえガス代300%、水道代375%、電気代500%-600%、電話代186%といった「麻酔なしの劇薬投与」のような改革で、批判の声もたかまりつつある。(参照「
iProfesional」)
そこにきて、その大統領が不正に財産を隠しもっていたということが証明されれば多くの国民はフェルナンデス前大統領と所詮同じむじなだと思うようになることをマクリ大統領は恐れているという。既に、マクリ大統領の政党を連携している政党からも批判が出始めている。
オフショア企業のFleg Tradingには2008年まで役員として彼の名前は記名されていた。その時に彼はブエノスアイレスの市長であった。しかし、もうひとつのオフショア企業Kagemushaは1981年に設立されて現在も存在しており、彼も役員として列記されている。この明確化が必要になっている。しかも役員として報酬をもらっているはずだ。その所得の申告がないというのも批判の対象になっている。
アルゼンチンの大統領として今必要なのは国民からの信頼である。それをどのような形で維持できるかが今後の彼の政局を左右することになるのは間違いない。
<文/白石和幸 photo/
Elza Fiúza/Agência Brasil(CC BY 3.0 BR)>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。