三菱重工がUAEドバイから火星探査機の打ち上げを受注! 苦闘を続けてきた日本のロケットビジネス

初の海外顧客である韓国からの受注

 こうした状況を改善すべく、2007年9月にはH-IIAの運用主体が、JAXAから三菱重工へと移された。また、商業打ち上げの営業活動も三菱重工が責任をもって行うこととなった。

JAXAの「しずく」と、韓国航空宇宙研究院(KARI)の地球観測衛星「アリラン3号」などを搭載したH-IIAロケット21号機の打ち上げ Courtesy of JAXA

 そして2009年、三菱重工は韓国航空宇宙研究院(KARI)から、地球観測衛星「アリラン3号」の打ち上げを受注する。アリラン3号は2012年5月、H-IIAロケット21号機に搭載され、打ち上げに成功。初の海外顧客からの受注と打ち上げを達成した。  ただ、この受注はやや変則的なものだった。実は、H-IIAロケット21号機の主となる衛星は、JAXAの地球観測衛星「しずく」だった。しかしH-IIAの性能に対して「しずく」は軽く、打ち上げ能力に余裕が生じた。アリアン3号はその余力を使って打ち上げられたのである。  受注額などについて、三菱重工やJAXAなどは一切公表していないが、韓国側の報道によると、約13億円ほどだったという。H-IIAの本来の価格は100億円前後といわれており、約10分の1である。これは他のロケットに比べても相当に格安な金額で、「しずく」と相乗りという条件だったからこそ、受注することができたと言える。

静止衛星の打ち上げ初受注はカナダから

 2013年9月には、カナダの衛星通信大手のテレサットから、大型の通信衛星「テルスター12ヴァンテージ」の打ち上げを受注、2015年11月に打ち上げに成功した。日本にとって80年代以来からの悲願である、静止衛星の打ち上げ初受注となったが、これもまたやや変則的なものだった。

H-IIAロケット29号機で打ち上げられたカナダの通信衛星「テルスター12ヴァンテージ」 photo by Telesat

 テルスター12ヴァンテージを打ち上げるH-IIAロケットは、JAXAが改良を加えた機体の1号機であり、その試験も兼ねて、JAXAが打ち上げ費用の一部を負担したと言われている。そのため、この打ち上げだけに限っては、他のロケットよりも若干安い価格を提示でき、それが受注の要因となった可能性がある。三菱重工やJAXAは詳細は明らかにしていないため、その真偽は不明だが、事実としてこれ以降、海外顧客からの静止衛星打ち上げ受注は取れていない。  2015年3月には、ドバイの地球観測衛星「ハリーファサット」の打ち上げも受注しており、2017年度の打ち上げが予定されているが、これも韓国のときと同様、JAXAの地球観測衛星に相乗りし、その余力を使って打ち上げられることになっている。  今回のUAEドバイからの火星探査機の打ち上げ受注は、海外顧客からの受注としては4件目となった。三菱重工は今回も受注額や条件などを公表していないが、この受注でもやはり、やや変則的なところがある。
次のページ
ゲリラ戦から脱却できるか
1
2
3
4
5
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会