結論からいうと、この事件はアルゼンチンと中国の外交問題に発展する可能性はというと薄いのではないかと思われる。
中国にとってラテンアメリカへの投資で、アルゼンチンはベネズエラとブラジルに次ぐ3番目に重要な国なのである。
昨年12月に誕生したマクリ大統領の新政権は、それまでの12年間に及ぶ中国とロシアを軸にした外交から、欧米との外交強化に軸を移している。そのように外交政策が変化している時に中国がアルゼンチンに対して今回の事件の抗議をすることは、マクリ政権がそれに反発して欧米指向の外交姿勢を更に強める可能性があるからである。
マクリ新政権以前の12年間に両国間の貿易は劇的に発展した。〈2014年には150億ドル(1兆7100億円)の貿易取引が実施され、その内の50億ドル(5700億円)が農牧畜産品と自然資源を主要品目としたアルゼンチンから中国への輸出総額〉であった。また、〈2014年には両国で20項目以上の協定が交されており、47億ドル(5360億円)の2つの火力発電所の建設や25億ドル2850億円)の鉄道建設〉なども協定に含まれている。更に、〈中国人民銀行とアルゼンチン中央銀行との間で人民元とペソの110億ドル(1兆2540億円)相当のスワップ協定〉も交されている。(参照「
El Pais」)。
マクリ大統領も、大統領選挙前は中国との協定は見直しが必要だとしてそれまでの両国の関係に懐疑の念を抱いていた。しかし、大統領に就任するや、中国のアルゼンチン経済における重要度に気がついたようで、今では中国への批判は一切避けているという。
ただ、依然としてマクリ大統領は欧米主体の外交姿勢をアルゼンチン外交の柱にするとしており、アルゼンチンが加盟しているメルコスール(南米南部共同市場)とEUとの貿易拡大に彼も動き始めている。それに供応するかのように、2月にはイタリアのレンツィー首相がイタリアの首相として18年振りにアルゼンチンを訪問し、その1週間後にフランスのオランド大統領も19年振りに同国を訪問した。そして3月23日にはオバマ大統領が米国大統領として19年振りの訪問となる。このような外交事情がある中で、今回の事件を契機に敢えてアルゼンチンとの関係を疎遠にさせるような挙動を中国が取るとは筆者には思えない。寧ろ、中国はマクリ政権とこれまでのように如何に上手く外交関係を維持するかということを考えているはずだ。
アルゼンチン沿岸警備隊が公開した動画
⇒【動画】はコチラ https://hbol.jp/87424
http://youtu.be/QjW3Eyc7Fog
Video: Prefectura Naval Argentina
<文/白石和幸 photo by
Valter Campanato/ABr(CC BY 3.0 BR)>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。