人工衛星打ち上げビジネスで始まった価格破壊。イーロン・マスクの「スペースX」の挑戦

スペースXが低価格を実現できた理由

スペースXの工場ではファルコン9の生産が続く photo by SpaceX

 ファルコン9がこれだけの低価格を実現できた理由は、これまでのロケット開発では考えられない、新しい開発手法にある。  従来のロケットは、十分に時間をかけて設計や試験を重ねて開発される。完成したあとはほとんど手は加えられない。これにより安全、確実に完成させることができるが、その反面、時間はかかることは言うまでもなく、競合他社の動きに即座に対応できないなど、欠点も多い。  そこでスペースXは、とりあえずロケットを造り、何度か飛ばす中で改良を加えたり、並行して実験機を造って飛ばし、その成果を本番のロケットに組み込んでみたりといった開発を行っている。これはちょうど、ソフトウェアを一度リリースした後、改良やバグ潰しのためのバージョン・アップやパッチをリリースするのと似ている。前述のようにマスク氏はIT業界の出身であり、こうしたやり方に慣れているのであろう。  また、無駄に高級な素材や、高性能を狙った難しい技術は使わず、信頼や実績のある技術を組み合わせて、十分な性能をもつロケットを仕上げている。さらに、開発や生産においては徹底的に無駄をなくすやり方が採用されている。「やや古い技術を新しいやり方で造った」ことこそが、同社とファルコン9の最大の特徴である。  もちろんそれだけでは、持っている技術以上の成長はできず、いずれは袋小路に陥る。そこで同社は、新しい技術を使った高性能エンジンの開発、3Dプリンターなどの新しい技術の導入も進めており、使えると判断された段階から順次、ロケットや宇宙船へと組み込まれているのだ。
次のページ
スペースXを生み出した米国の宇宙産業の下地
1
2
3
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会