人工衛星打ち上げビジネスで始まった価格破壊。イーロン・マスクの「スペースX」の挑戦

鳥嶋真也

イーロン・マスク氏とファルコン9。photo by SpaceX

 人工衛星をロケットで宇宙に打ち上げる人工衛星打ち上げビジネス。そのうち、衛星放送や衛星通信などに使われる民間企業の衛星を、民間が運用するロケットによって打ち上げることを「商業打ち上げ」と呼ぶ。

 通信・放送衛星の打ち上げ市場は、現在年間に毎年20~30機ほどの打ち上げ需要しかなく、そこに米国や欧州、ロシア、日本などが運用する10種類近いロケットがひしめき合っており、供給過剰の状態にある。

 この市場は数年前まで、長年の実績と信頼を売りにする欧州の「アリアン5」ロケットと、高性能ながら安価なロシアの「プロトンM」ロケットがほぼ二分し、残りの数機を日本の「H-IIA」など、その他のロケットが奪い合うという状況が続いていた。

 しかし2014年に入り、その勢力図が大きく塗り替えられた。アリアン5よりも、さらにプロトンMよりも安価な、米国の「ファルコン9」というロケットが割り込んできたのである。

宇宙業界の風雲児「スペースX」

ファルコン9ロケット photo by SpaceX

 ファルコン9を開発したのは、米国の「スペースX」という会社である。設立者はイーロン・マスク氏。「テスラ・モーターズ」という電気自動車の会社の設立者としても知られ、最近では日本でもよく話題に上る人物である。

 マスク氏はインターネット決済サービスでおなじみのPayPal(正確にはその前身のX.com)の設立者でもあり、そのPayPalを売却して得た資金をもとに、2002年にスペースXを立ち上げた。

 スペースXはまず、小さなロケットから造り始め、技術を蓄積した後、大型のファルコン9ロケットを開発した。

 ファルコン9の特長は、とにかく安いことにある。公称価格は6120万ドル(現在の為替レートで約69億円)で、ほぼ同じ性能をもつ他のロケットは、おおむね100億円を超えており、相当安価であることがわかる。

 ファルコン9が登場した当初は、安くても失敗しやすいのではと、その信頼性が疑われていた。しかし、これまでに22機が打ち上げられ、そのうち失敗は1機と、まずまずの成績を残しており、徐々に市場の信頼を勝ち取っていった。

 さらに、ロシアのプロトンMロケットは近年失敗が増えていることもあって、ついに2014年には、商業衛星打ち上げ市場はアリアン5と、そしてファルコン9が二分する形へと塗り替えられることになった。

 ファルコン9はその後も着実に受注を重ね、現在も40機ほどのバックオーダーを抱えている。

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スペースXが低価格を実現できた理由

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