米大統領選の「トランプ人気」とは何なのか? そしてそこから何を学ぶべきか?

対立陣営の分裂が生み出す「ファシスト」

 そして、この「相手が分裂しているから、トランプのような人物が勝ってしまう」というメカニズムこそが、歴史上何度も何度も繰り返し出現した、「ファシストの登場パターン」なのだ。  ナチスの登場でさえこのパターンだ。現代に生きる我々は、「ヒトラーの巧みな演説と党による巧妙な宣伝により、ドイツ国民はナチスを圧倒的に支持し、ナチを政権につかせてしまった」と思いがちだが、事実はそうではない。ナチは、選挙で過半数をとったことがない。ヒトラー首相就任直後に実施され、後に「最後の選挙」と呼ばれることになる1933年3月の総選挙でも、既に掌握していた警察権力を駆使し、敵対政党の選挙を妨害し続けたにもかかわらず、ナチの得票率は49%にとどまった。もし、ヒトラーが政権につくまでの選挙で、敵対政党(とりわけ共産党と社会党)が大同団結し、ナチと対峙していれば、ナチが政権につくことはなかったであろう。  安倍政権もそうだ。安倍政権誕生以降実施された、全ての国政選挙(第46回衆議院議員総選挙、第23回参議院議員通常選挙及び第47回衆議院議員総選挙)で、自民・公明の得票数は過半数を超えたことがない。常にどの選挙でも、自・公以外の政党の得票数合計が上回っている。それゆえ、今、安倍首相は、野党が連帯して来る参院選に臨もうとしていることに強い警戒感を示しているのだろう。他ならぬ安倍首相本人が「敵対側が連帯すると、選挙に勝てない」ことを一番よく理解しているのだろう。  我々は、「ファシストやポピュリストが大衆を扇動し、扇動された大衆が圧倒的になり、ファシストやポピュリストが政権に就く」と思いがちだ。そして、この紋切り型の解釈で、次々と生まれてくるポピュリストやファシストたちを論評してしまう。賢しらだって「なぜあのような人物が支持を集めてしまうのか。。。」などと論評してしまう。  そうした論評は便利である。定量的に数字を見なくても、定性的な情報だけで何か言った気になれる。トランプやヒトラーや安倍晋三のような人物を前にして、「なんでこんな人物が選挙に勝てるのかねぇ」と腕を組んで眉をひそめて見せれば、論者は「賢そうな自分」を演出できる。それに何より、責任を負わずに済む。「ああいう下品でバカな低脳が支持を集めるのは、大衆がそういうものを欲しているからだ」とでも言っておけば、自分と大衆を切り離し、他人事にすることができる。  だが求められているのはそのような、ありきたりで紋切り型で何の内実も伴わずしかも定量的には事実誤認でさえある論説ではない。そのような論説は百害あって一利なしだ。そんな論説などお構いなしにファシストは勝ち進むだろう。  下品で、差別的で、粗野で、バカな勢力が選挙に勝ち進むときには、そうでない人々が大同団結して対応するしかないのである。一致団結して、「バカが要路に座ってはいかんのだ」とバカに声を叩きつけるしかないのだ。自分が候補者絞り込み作業や政党間の調整に参与できない一般市民ならば、大きな声を出して、「野党は連帯しろ」「ファシストを許すな」と声を上げるしかないのだ。  決して広範な支持を得ているとは言えないトランプの「躍進」は、決して対岸の火事ではない。我が国としても、とりわけ良識ある市民にとっては、他山の石とすべき事例だと言えよう。 <文/菅野完(Twitter ID:@noiehoie)photo by Gage Skidmore on flickr(CC BY-SA 2.0)
すがのたもつ●本サイトの連載、「草の根保守の蠢動」をまとめた新書『日本会議の研究』(扶桑社新書)は第一回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞読者賞に選ばれるなど世間を揺るがせた。メルマガ「菅野完リポート」や月刊誌「ゲゼルシャフト」(sugano.shop)も注目されている
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