米大統領選の「トランプ人気」とは何なのか? そしてそこから何を学ぶべきか?

「トランプは圧倒的支持」なのか?

 確かにトランプ氏は、共和党の予備選で圧勝している。そしてそのことは驚きに値するだろう。だが、彼は本当に「圧倒的な支持率」や「熱狂的な支持」を受けて勝っているのか?  ニューヨークタイムスが開設した予備選結果集計サイトに掲載されているスーパーチュースデーの投票結果を、日本の読者にもわかりやすいように、再集計してみた。 ⇒【資料】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=85621  赤く塗りつぶした場所が、勝者を示す。 こうしてみると、トランプ氏の列に赤色が集中しており彼の「予備選での圧勝」がよくわかるだろう。  ここで、色ではなく数字に着目してもらいたい。  トランプ氏は確かに、7つの州で勝利を収めた。しかし、どの州でも過半数を取っていないことがお分かりいただけるだろうか?アーカンソー州やバーモント州などでは、わずか33%の得票しかない。まさに「辛勝」といったところだ。  繰り返しになるが、トランプは選挙に勝ったといえどもどの州でも過半数を取っていない。ということは、どの州でも「トランプ以外の票」がトランプより上回っているということだ。  そこで、乱暴であることは承知の上で、前掲の表を「トランプ」「トランプ以外」で分けてみた。 ⇒【資料】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=85622  当然ながら、「トランプ以外」の票が11州のうち10州において上回る。改めて作表するまでのこともなかろう。「トランプはどこでも過半数を取っていない」のだから、「トランプ以外の票が過半数を上回る州が多くなる」のは当然の話だ。  だが、やはりここでも数字に着目してもらいたい。ほぼすべて州で、「トランプ以外の票」が6割以上を占めているのが見て取れるだろう。  無論、この集計は無理がありすぎる。クルーズ候補の支持層が「反トランプ」でルビオ候補に投票することは考え難いし、その逆もそうだろう。ケーシック候補がバーモントで善戦したのは「トランプもルビオもクルーズもみんな嫌だ」という「消極的選択」の賜物でしかなく「反トランプ」の得点としてカウント出来ない。そうした無理や不自然さをこの集計は含んでいる。また、トランプ候補の登場で予備選投票者数が増えたという側面もこの集計は反映していない。その点で真面目な集計とは言えない。  ただ、「トランプが圧倒的な支持を受けている」などという言説には、何の根拠もないことはわかるだろう。どの州(しかも本選ではなく共和党内の予備選でしかないにもかかわらず!)においても過半数さえ取れないような候補に、「圧倒的支持が集まっている」とは言えない。 (もう少し詳しい集計や分析は、例えばデータジャーナリズムの先駆者として知られるメディア「FiveThirtyEight」が公開しているこの記事などを参照してもらいたい。やはり冷静に数字だけを見れば、「トランプ人気」とは言い切れないことがお分かりいただけるだろう。)  有り体に言えば、トランプ以外の候補者が乱立しているからトランプが予備選に勝つだけの話である。ただそれだけの話でしかない。もし共和党の候補者レースに参加する候補者の数が、民主党のように初期の段階で絞りこまれていれば、トランプがここまで勝つこともなかっただろう。(※当然、こんな簡単なことは共和党の執行部も理解している。スーパーチュースデー明けより、共和党の幹部たちは口々にトランプ候補に対する非難を始めた。参照「CNN」Romney: Trump is likely GOP nominee, but contested convention is ‘realistic’
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