牛丼業界は構造改革まったなし――「なか卯」の決算から考える業態の未来
【牛丼業界比較表】
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※参考情報:吉野家、松屋、すき家、なか卯
まずは、日露戦争の5年前には創業していた「吉野家」に敬意を払いつつ、目につくのは今やその「吉野家」を大きく突き放す「すき家」の売上と店舗数です。「なか卯」と合わせた場合、「吉野家」と「松屋」を足したくらいあります。あらためてこの10年で勢力図が変わったことを思い知らされますね。
ここからは、あくまで単純計算になりますが、売上を店舗数で割ると大体牛丼御三家は同じ感じで、1店舗当たり年間7000万~8000万円「なか卯」はそれより少し落ちると言う感じです。『はいからうどん小140円』とかやってますしね。1日で割ると20万円くらいでしょうか。仮に客単価を500円とすると日に400人、平均で1時間に20人と置いてみると、確かに違和感はない感じでしょうか。
ただ、問題は利益の方で、各社1店舗当たり年間200万円前後、1日に5000~6000円といった状況です。「吉野家」がやや上回っているようにも見えますが、おそらく牛丼を300円から380円に値上げした影響で、直近の数字を見ると客単価は上がっても、今度は来店者数の下落傾向が見て取れ、良い状況とはいえません。
また、「すき家」も今年は回復傾向ですが、昨年は「ワンオペ」問題によって大きく赤字を計上していました。確かに、この単価と利益率だと削れるところが人件費くらいになりそうですし、1日1店舗当たりの利益が5000円、深夜バイトを1時~6時で入れたらそれで飛ぶレベルと考えると分かりやすいですね。仮にそれが解消しても、かつてのBSEのような問題が起きれば、一気に大型赤字となってしまう、そんな業界全体の利益構造のもろさが感じられます。
「なか卯」にしても、300億円近い売上を上げながら、5億円の純赤字を計上しています。もちろん、純利益なので本業以外の突発的な要素の可能性もありますが、とはいえ店舗当たりの売上も厳しく、この数字を見ていると、第5のチェーン「神戸らんぷ亭」の消滅や久々の新規参入「東京チカラめし」の撤退も納得がいくところです。
かつてはデフレ時代の勝ち組でもあった「早くて、安くて、美味い」ファーストフードしての牛丼に生き残る術はあるのか、あるいはそれを捨てて高単価路線への切り替えに活路を見出せるか、はたまた更に海外展開やM&Aといった戦略に重きを置いていくのか、いよいよ正念場となりそうですね。
決算数字の留意事項
基本的に、当期純利益はその期の最終的な損益を、利益剰余金はその期までの累積黒字額or赤字額を示しています。ただし、当期純利益だけでは広告や設備等への投資状況や突発的な損益発生等の個別状況までは把握できないことがあります。また、利益剰余金に関しても、資本金に組み入れることも可能なので、それが少ないorマイナス=良くない状況、とはならないケースもありますので、企業の経営状況の判断基準の一つとしてご利用下さい。
<写真/inazakira>
【平野健児(ひらのけんじ)】
1980年京都生まれ、神戸大学文学部日本史科卒。新卒でWeb広告営業を経験後、Webを中心とした新規事業の立ち上げ請負業務で独立。WebサイトM&Aの『SiteStock』や無料家計簿アプリ『ReceReco』他、多数の新規事業の立ち上げ、運営に携わる。現在は株式会社Plainworksを創業、全国の企業情報(全上場企業3600社、非上場企業25000社以上の業績情報含む)を無料&会員登録不要で提供する、ビジネスマンや就活生向けのカジュアルな企業情報ダッシュボードアプリ『NOKIZAL(ノキザル)』を立ち上げ、運営中。
圧倒的な「すき家」の拡大路線も業界全体が採算ギリギリ
中堅「神戸らんぷ亭」新興「東京チカラめし」も脱落
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