「日本だけ石炭火力発電所を増設」の謎

環境コストが除外、一見安く見える

 事業者がここにきて石炭火力を新設する背景には、今年4月から始まる電力の小売自由化が深く関係している。発電事業だけでは利益が薄くても、安い石炭火力の電気を小売事業につなげることで有利になるからだ。しかしその安さの裏には、温暖化の促進などの環境問題だけでなく、人々の健康への影響も懸念されるなど、犠牲になるものも多い。 ⇒【資料】はコチラ https://hbol.jp/?attachment_id=83591

G7の中で新規の石炭火力発電所の建設を増やしているのは日本だけ。赤が現在稼働中の分で、黄色が今後建設される分。グレーは建設が中止になったもので、緑はすでに稼動を停止した石炭発電所。米国やドイツは現在稼動している量は多いが、順次閉鎖されていく予定になっている。(データは2015年10月時点のE3G報告による)

 欧米ではすでに環境対策の規制が増え、再生可能エネルギーが安くなっていることで、事業者の利益が出ないといった事態も起こっている。しかし日本では石炭火力によって犠牲になる環境コストが省かれているので、一見安く見えてしまう仕組みになっている。しかし一度建設したら少なくても40年は稼働する石炭火力発電所を今から作るという選択は、長い目で見て日本の利益になるのだろうか。

石炭火力を増やそうとしている先進国は日本だけ

「脱石炭」のキャンペーンを進める「NPO法人気候ネットワーク」理事の平田仁子さんは言う。 「世界が脱炭素に進む中で、こんなに石炭火力を増やそうとしているのは先進国で日本だけです。電力自由化で気をつけてほしいのは、消費者の側は安ければ良いという姿勢ではなく、“汚い”電源である石炭火力について厳しい目を持ってほしいと思っています。もちろん、クリーンな電源を選ぶためには、どの電力会社がどういう電源から調達しているのかについて、情報開示が義務づけられる必要があるのですが」  電源をどうするかという問題は、数十年後にどんな社会を作りたいのかということに関わっている。電力会社を選べるようになるタイミングに、石炭火力を使っているかどうかもチェックしたほうが良いだろう。 <取材・文・写真/高橋真樹 著書に『ご当地電力はじめました!』(岩波ジュニア新書)など>
ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師。環境・エネルギー問題など持続可能性をテーマに、国内外を精力的に取材。2017年より取材の過程で出会ったエコハウスに暮らし始める。自然エネルギーによるまちづくりを描いたドキュメンタリー映画『おだやかな革命』(渡辺智史監督・2018年公開)ではアドバイザーを務める。著書に『ご当地電力はじめました!』(岩波ジュニア新書)『ぼくの村は壁で囲まれた−パレスチナに生きる子どもたち』(現代書館)。昨年末にはハーバービジネスオンラインeブック選書第1弾として『「寒い住まい」が命を奪う~ヒートショック、高血圧を防ぐには~』を上梓
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ご当地電力はじめました!

地域の電力は自分たちでつくる! 「おひさまの町」飯田市、上田市の屋根借りソーラー、岐阜県いとしろの小水力、福島県会津地方で発電事業を進める会津電力、東京多摩市で活動する多摩電力、北海道から広がる市民風車。各地でさまざまな工夫をこらして、市民主導の「ご当地電力」が力強く動き出しています。

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