IKEAのモロッコ出店のために西サハラの独立への支持を撤回と報じる「PUBLICO」紙
このような背景がある中で、昨年10月に発足したスエーデンの中道左派政権は西サハラの独立を支持していたのである。この中道左派政権はそれまでの中道右派政権と異なり、人権擁護を特に重視した外交を展開することを主眼に置いた。その結果、今回の問題以外にも、既に二つの外交問題を起こしていた。ひとつはサウジアラビアに対し、女性の社会的地位が差別され、また斬首刑などが実施されているとして同国への武器の輸出を禁止した。これはアラブ連盟と対立するまでに発展した。もうひとつは他のEU西側諸国に先駆けて、パレスチナを国家として承認したことでイスラエルから反発を喰らった。
この二つの外交問題を経験して外交上不都合な立場に立たされたスエーデン政府は、3度同じ外交衝突は避けたいということで、今月1月にスエーデン政府は西サハラの独立を支持する姿勢を取り下げた。それによって、IKEAを始め、Erricson、Volvo、Saabなどスエーデン企業のモロッコとの取引に支障が起きないようになるはずだとしたわけだ。
国内企業を守るためとはいえ、中道左派政権としての軸がブレてしまったと言える今回の決定。IKEAのモロッコ出店は叶うかもしれないが、その影響は少なくなさそうだ。
<文/白石和幸 photo by
Philip Halling(CC BY-SA 2.0) >
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。