世界の企業が注目するメキシコ。しかし大きな「リスク」要因も……
ZOCALO SALTILLO』 )となっている。
それは、メキシコが米国とカナダとの3か国で北米自由貿易協定(NAFTA)を結んでいる利点を利用して、比較的安い労働賃金のメキシコが北米市場の生産拠点として利用できるからだ。
またメキシコに日本企業が進出するメリットはまだある。それは、メキシコが、コロンビア、ペルー、チリと太平洋同盟を結成し、またブラジルとアルゼンチンが中心となって構成している南米南部共同市場(メルコスール)の準メンバーでもあるという点だ。更に、メキシコは世界の40か国以上と貿易自由協定(FTA)か経済連携協定(EPA)を結んで世界に貿易を拡大している点も挙げられる。また、環太平洋経済連携協定(TPP)にも加盟しているのだ。即ち、世界の企業にとってメキシコを生産拠点にして世界と貿易取引の伸展を計るという構想が容易に描けるのである。
特に自動車産業の進出が盛んなのはグアナフアト州だ。本サイトでも既報のように、グアナフアト州は日本企業及びそれらの企業の社員の誘致が盛んなのだ。先述したトヨタの新工場もグアナフアト州だし、ホンダとマツダに至っては、両社は同州の10大投資企業として同州紙『GUANAJUATO』にリストアップされているほどの“太客”なのである。
しかし、メキシコには外国からの投資や企業伸展を妨げる大きな要因がひとつある。
それは、麻薬カルテルの存在だ。
麻薬カルテルの存在が国内の安全面で影響しているのである。カルテルは麻薬の製造や販売以外に、人身売買、武器の購入販売、エネルギー資源の密売買、誘拐などの犯罪行為を行なって国際的レベルで活動している。
メキシコ紙『Excelsior』5月8日付によると、現在メキシコには〈9つのカルテル組織があり、43の分派に分かれている〉という。その中心拠点はメキシコ第2の都市とされるグアダラハラを州都とするハリスコ州である。
そして問題なのは、トヨタやマツダ、ホンダが進出しているグアナフアト州は、カルテルの本拠地があるハリスコ州と隣接しているという点だ。グアナフアト州でも〈2007年に殺人事件は219件記録されているが、2014年には800件に増加している〉ことがメキシコの地方紙『am』にて報じられているほど、安全な都市とは言いがたいのが現状だ。
今年6月2日に在メキシコ米国大使ウエイン氏が、ある講演で〈カルテル組織の仲間の活発化と犯罪行為の増加は外国からの投資にブレーキをかけることになる〉と警告した。また〈進出している企業の安全面からのコストの上昇が生じる〉ことを指摘して、〈「外国からの円滑な投資にマイナス影響を与えることになる」〉と述べた。(参照1、2)。
また英国の世界企業VirginグループのCEOのブランソン氏も、メキシコ経済紙『Financiero』のインタビューの中で〈「もし政府が安全についての問題を合法的に解決するようになれば、そして汚職も少なくするようになれば、我々はもっとメキシコに投資する」〉と答えている。
経済的なメリットから注目され、日本企業も多く進出するメキシコだが、そこには中国とはまた違ったリスクがあるのが現実だ。そしてこのリスクが、現在のメキシコを他のラテンアメリカの多くの国と同様な経済的低迷に追い込んでいる。しかし、これらのリスクが解消したとしたら、メキシコはかなりのポテンシャルを秘めた国になるはずだ。
<文/白石和幸 photo by photo by Carlos ZGZ on flickr (Public Domain)>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。
ラテンアメリカにおける最大の経済力をもっている両雄はブラジルとメキシコである。
そのため、近年では日本企業もメキシコに熱い視線を注いでいる。
2015年にも4月にトヨタがメキシコに新工場設立を発表。パナソニックも10月にメキシコに北米向け換気扇生産拠点を新設すると発表している。特に先述のトヨタのように自動車産業はメキシコ進出に意欲的で、世界の主要自動車メーカーがメキシコに進出している。そして関連した下請け企業も同時に進出している。
実際に、メキシコの自動車産業は発展が著しく、外国からの直接投資も多い。主な投資国は、〈米国(59.4%)、スペイン(14.3%)日本(8.2%)、韓国(4.8%)、フランス(2.9%)、オランダ(2.3%)〉となっている(参照:『
なぜメキシコに熱い視線が注がれるのか?
メキシコならではの問題もある
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
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