函館に上陸した北海道新幹線H5系(photo by T.R rex / PIXTA)
2016年3月26日に開業する北海道新幹線の運行概要が見えつつある。9月半ばには運転本数が発表された。それによれば、東京から新函館北斗まで直通する「はやぶさ」は1日に10往復。さらに仙台発着・盛岡発着・新青森発着(後述の2本は「はやて」)がそれぞれ1往復ずつ運行される予定だという。また、10月半ばには特急料金の上限額も発表され、東京~新函館北斗間の料金は特急料金と運賃をあわせて2万2690円が上限になる見込みだ。
運転本数も料金も決まり、全貌が徐々に見えてきた北海道新幹線だが、果たしてその利便性はどうなのだろうか。
「北陸新幹線開業では“新幹線バブル”が巻き起こり、利用者もかなり多くて北陸各県の来訪者も増加した。JR北海道や沿線自治体はこうしたバブルを期待しているのでしょう。しかし、北海道新幹線ではほとんど期待できないと言っていい」
鉄道専門誌の記者はこう断言する。
「そもそも北陸と北海道はあまりに状況が違います。本州、特に首都圏から北海道へのアクセスは大半が飛行機です。近年はLCCの就航もあって料金は安くなるばかり。こうした状況で、飛行機よりも時間のかかる新幹線を利用する人がいるとは思えません」(同前)
実際に、東京から函館に向かう場合の料金と時間を比較してみよう。北海道新幹線では、正式な発表こそまだないものの、所要時間はおおよそ4時間10分程度になると見られている。料金は前述のとおり2万2690円。
一方の航空機利用はどうだろうか。羽田~函館便では日本航空・全日空・エアドゥが就航しているが、通常料金ではエアドゥが2万7100円(通常期)となっている。ただ、搭乗前日までの予約で約1万円安くなる。さらにそれぞれ空港までのアクセスに約1000円かかることを考えると、航空機では約1万8000円で東京駅から函館駅まで行くことができるというわけだ。また、所要時間は飛行時間が約1時間20分、搭乗手続きや空港までの移動時間を考慮に入れても3時間で到着する計算になる。
つまり、東京から函館に向かうなら、飛行機のほうが“安くて速い”ということだ。これでは「首都圏と北海道の往来に新幹線はほとんど使われない」(前出の記者)という意見ももっともといえるだろう。
「JR北海道は赤字続きの経営立て直しにあたって、北海道新幹線に大きな期待をかけているようです。ただ、現状を見る限りでは、その新幹線効果はごくわずか。開通直後こそ珍しさもあってそれなりに利用があるでしょうが、経営立て直しに貢献するだけのレベルになるとは到底思えません」(前出の記者)
ただ、一方で北海道新幹線には“東北と北海道の往来の利便性を向上させる”という目的があるとも言われている。たしかに、現状では仙台や盛岡から函館に向かおうとすれば、東北新幹線と在来線特急「白鳥」「スーパー白鳥」を乗り継がなければならない。これが新幹線開通によって大幅に時間が短縮されるというわけだ。
しかし、前出の記者はこの目的にも疑問を呈する。
「そもそも新幹線の終着駅は函館ではなく新函館北斗。そこから在来線の快速に乗り換えて約20分かかります。それを考えれば、現状と大して違いはない。所要時間こそ約1時間短縮されますが、料金はその分高くなるわけですから……」
さらに、北海道新幹線には時間短縮に繋がる速度アップができない理由があるという。
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期待高まる北海道新幹線が時間短縮できない「政治的」理由
<取材・文/境正雄>