なぜ宗教と政治は惹かれ合うのか?――シリーズ【草の根保守の蠢動】特別企画「宗教と政治の交わるところ」第一回
2015.07.05
本連載「草の根保守の蠢動」がスタートした直後、一冊の学術書が出版された。
著者は、國學院大學研究開発推進機構日本文化研究所の助教・塚田穂高(つかだほたか)氏。
『宗教と政治の転轍点―保守合同と政教一致の宗教社会学―』と題された同書は、「なぜ宗教は政治活動を行うのか」「なぜ政治は宗教を利用するのか」「多数の宗教団体が集まる日本会議とはいかなる組織なのか」といった問いに、宗教社会学の立場から取り組んでいる。
塚田氏が学術研究として取り組んだこれらの問いは、本連載がいま取り組んでいるものと、まさに同じだ。
そこで、時をほぼ同じくして筆者と同じ課題に取り組んでおられる塚田氏をお招きし、「なぜ宗教と政治は惹かれ合うのか」「日本会議が多数の宗教団体を引き寄せるのはなぜか」を語り合うこととした。
シリーズ「草の根保守の蠢動」特別編として、この対談を全3回に分けてお送りしたいと思う。
塚田:本日はお招きいただきありがとうございます。しかし、前後関係から言うならば、私が菅野さんの連載を読んで腰を抜かしたのが先です。連載が始まった2月はこの本を出すための作業も佳境でした。だからネットで日本会議関連の動向をチェックしたりする余裕もありませんでした。ちょうど3月、脱稿して、もう印刷に入ったときですね、ちょっと検索していたら、たまたま菅野さんの連載を見つけまして……。なんだこれはと。それで、菅野さんのTwitterもみつけて見てみたら、さらにヤバイことが書いてあって……。
菅野:僕が塚田先生を初めて知ったのもTwitterでした。「法の華三法行」の福永法源が復活してるぞという話題がTLに流れてきまして、そのイベント会場の様子をリポートしてる人がいるのをみつけて、「すごい人がいるな……」と思って、読んでみたら、塚田穂高という宗教社会学者だと。で、『宗教と政治の転轍点』というそのままズバリのタイトルの本を近々出版するぞということがわかって、大急ぎでAmazonで本の予約を入れたんです。で、読んでみたら腰が抜けそうなほどびっくりしました。
塚田:お互いびっくりしたんですね(笑)。
菅野:この連載のための調査を進めて初めて知ったんですが、「政治と宗教の関わり」について正面から取り組んだ学術論文はほとんどないんですよね。そんななか、塚田先生の『宗教と政治の転轍点』が出た。初めて読んだ時、驚きました。学術論文の索引に「椛島有三」という名前が載る日が来るとはまったく思っていませんでした。
塚田:そこからですか。あの索引はかなり狙ったもので、作業時に、絶対この人名、この項目だけは入れるぞと、厳選して作ったものですね。
菅野:しかし本当に先行研究のない分野ですね。誰の目からみても日本会議が安倍政権を支えているのは明らかなのに、ちゃんとした研究がほとんどない。ご著書は今年の3月25日に出版されたわけですが、先生は、もちろんそれまでに長い間、調査されてきたわけですよね。先生が、「あれ?これはおかしいぞ?」「宗教研究としてちゃんと分析しなきゃいけないぞ?」と思われたのはなにがきっかけですか?
塚田:私の専門分野は、学問としては宗教社会学というものです。そのなかでもとりわけ、新宗教研究。この分野には多くの蓄積がありますけれども、ただ、最近は「もう今さらだよね」というか、学界としては、やや研究が停滞気味と言われることも多いです。でも個人的には好きだから、興味がつきないから、しぶとくやってきています。そのなかで「新宗教とナショナリズム」という点に関心を持ちました。先行研究もあまりないし、先輩研究者から声をかけられたこともあって、始めたのは2007年くらいですかね。
菅野:2007年ということは、ちょうど、第一次安倍政権の頃ですね。その時にすでに何かを感じとられていた?
塚田:いや、そういうわけではないんです。このテーマに関しては、新宗教のなかでも、「幸福の科学」の研究からまず入ったんです。本書でいえば、最後の第8章のところからということです。当時はまだ政治団体「幸福実現党」ができる前ですし、幸福の科学のナショナリズムも政治的な動きも影を潜めていました。だから、まだ彼らのナショナリスティックな言動が顕著だった90年代前半のころの研究をやっていたんです。
その過程でフィールドワークに出たわけですが、偶然、2009年5月10日に、日比谷公会堂で開催された若者向けの集会で、彼らが「政治に出るぞ!」と宣言する現場に立ち会いました。ある意味、研究対象のほうが動いていったようなところがあります。
そんな感じで幸福の科学の研究を続けていたんですけど、幸福の科学=幸福実現党だけをやっていても研究的に広がりや深みが出なかった。そこで、オウム真理教=真理党など、徐々に研究対象を広げていったんです。そんななかで、いつのころかはっきり覚えていないですけど、日本会議の機関誌『日本の息吹』の購読を開始していましたね。
菅野:それってきっかけは覚えてらっしゃらないかもしれませんが、新宗教研究をしてらっしゃると、宗教の「匂い」を感じとってらっしゃったんじゃないですか?
塚田:新宗教の研究をしていて、あの代表委員の名簿をみたら当然「おおっ!」となりますね(笑)。
⇒日本に蔓延する「宗教に対する浅薄なナイーブさ」に続く
<文/菅野完(Twitter ID:@noiehoie)>
塚田穂高●1980年、長野市生。國學院大學研究開発推進機構日本文化研究所助教。専門は宗教社会学で、新宗教運動・政教問題・カルト問題などの研究に取り組む。ちなみに、取材活動などがあるため残念ながら近影はNGとのこと。Twitter ID:@hotaka_tsukada
なぜ「日本会議」が研究の対象になったのか?
『日本会議の研究』 「右傾化」の淵源はどこなのか?「日本会議」とは何なのか? |
『宗教と政治の転轍点―保守合同と政教一致の宗教社会学―』 戦後日本の宗教運動は、どのように、そしてなぜ、政治に関わってきたのか |
この連載の前回記事
2015.06.27
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