アベノミクスを否定したいがあまり目が曇ってしまったのか?

反論記事をいただいたのですが……

 5月2日に私が投稿した記事に対して、菅野完氏がハーバービジネスオンラインに反論記事を投稿されました。

・私の記事『「アベノミクスは失敗」に反論。どうみても雇用は改善している

・菅野氏の反論記事 『「アベノミクス批判への反論」が自ら陥った「統計の詐術」

「統計の詐術」とタイトルにあるとおり、私が詐術的なグラフ統計のトリックを使って読者を騙していると主張されているのですが、記事を読んでみてもどこがどう詐術的なのか、私には理解することができませんでした。ちなみに次の2つが疑惑とされたグラフです。

※<資料>はコチラ⇒http://hbol.jp/?attachment_id=39110

アベノミクス まず、「一つ目のグラフが失業率なのに2つ目のグラフが失業者数になっている」という菅野氏の指摘。これについては、先に失業「率」を示し、その後で失業者「数」を示すとなぜ詐術的になるのか、その理屈が反論記事中では説明されていません。ただ「ダメだからダメだ」と言っているだけなのですが、なぜダメなのか、よくわかりません。

 私が失業率のグラフを冒頭に持ってきたのは、ただ失業率を眺めているだけではわからない、就職を諦めて労働市場から撤退した人、新たに就職活動を開始した人が、労働力人口と失業者数の実数の変化を見ることによって、初めて浮き彫りになることを説明するための単なるストーリー上の「演出」です。それ以上でもそれ以下でもないのですが、菅野氏はこの正直どうでもいい部分を指摘していったい何が言いたいのでしょうか。

 また、2つ目のグラフにおいて、縦軸のスケールの取り方が作為的だと指摘されていますが、どこがどう作為的なのかもよくわかりません。労働力人口と失業者数でスケールの下限が6500万人と200万人とではかけ離れすぎていると言われていますが、ではどのようにすれば「正しいグラフ」になるのでしょうか? 間違っているというのならその「正しいグラフ」を自らがつくってみせるのがセオリーだと思うのですが、菅野氏からはそのようなグラフは提示されておりません。しかたがないので、私のほうで菅野氏の指摘のとおり、スケールの下限と上限を揃えたグラフ(図1)を作成してみました。

※<資料>はコチラ⇒http://hbol.jp/?attachment_id=38881

労働力人口

図1

 単に横線が2本並んでいるだけに見えるのですが、菅野氏に言わせるとこれが「正しいグラフ」ということなのでしょうか? これでいったい何がわかるのかぜひ説明していただきたいと思います。

 ただ、ちょっと皮肉った言い方をしてしまいましたが、菅野氏が何を言わんとしているのかについては、ある程度察しはつきます。恐らく、それぞれの指標には本当は因果関係や相関性はないのだけれど、たまたま相関した時期やスケールの部分だけを抜き出して、「ほれ見ろ、この2つの指標には相関性がある!」と主張する、いわゆる擬似相関のトリックと言うものがあるのですが、このことを言いたいのだと思います。しかし、残念ながら今回私が作成したグラフは相関性の有無を測ることを目的にしたものではありません。

 私が作成したグラフの目的は、労働力人口のトレンドの転換点がいつのタイミングであるのかを明確にすることです。したがって、グラフのスケールはその転換点が見えやすくなるように調整する必要があります。そのトレンドの転換点が「アベノミクスで雇用は改善していない」と主張する方々がもっとも隠しておきたい情報だと思いますが、私はそれを暴くために必要な処理をしただけにすぎません。

 もし、このグラフを菅野氏が推奨されるグラフ(図1)のスケールにしてしまうと、当然ながらトレンドの転換点はまったく見えなくなってしまいます。なんと言いますか、私に詐術的だと言っておきながら、「アベノミクスで雇用は改善していない」と主張する方々にとって都合の悪いデータが見えなくなるようにスケールを調整しろと指摘するとは、いったいどのような了見なのでしょうか。また、私はこのグラフにて民主党政権下では労働力人口と失業者数の減少幅がほぼ同じであると説明していますが、これは重要な指摘だと思いませんか。これも私のグラフのようにスケールを調整しなければ隠れてしまう「民主党やアベノミクス批判者にとって都合の悪いデータ」なのですが、これも見えなくするべきだとおっしゃるのでしょうか。

 そもそも、労働力人口と失業者は「労働力人口=就業者+失業者」の関係がありますので、スケールを合わせてその増減の比較をすることは、一般的に何の問題もありません。問題がないどころか、失業者と労働力人口の変化は就業者数の増減に密接に関係しており、冒頭でも少し触れましたが、「就職活動を諦めた人」と「新たに就職活動を始めた人」をあぶり出す重要な働きをします。失業率をただ眺めているだけでは決して見えてこない視点です。ここが私の記事の肝なのですが、きちんと内容を理解して批判されていますか?

 しかし、それでも納得できないとおっしゃられるかもしれませんので、次のグラフ(図2)を作ってみました。これは2008年1月を基準として、労働力人口と失業者数の増減数の推移をグラフにしたものです。これならスケールも一緒ですので問題ないと思いますがいかがでしょうか。

※<資料>はコチラ⇒http://hbol.jp/?attachment_id=38884

労働力人口

図2

私は一体何の情報を覆い隠したのでしょうか?

 菅野氏は私の記事を「詐術的」、「統計のトリックだ」とおっしゃっていますが、詐欺やトリックというものはこちらの見せたくないものを相手から見えないように隠し、見せたいものだけを見せるテクニックのことだと認識しています。ということは、私は先の記事のなかで、都合の悪い情報を覆い隠していることになると思うのですが、それは一体何なのでしょうか? 記事中でもとくにそのような指摘は見当たりません。

 2つのグラフで失業率と失業者数を書き分けること、そして2つ目のグラフでスケールを合わせることによって、いったいどのような都合の悪い情報が隠されているのでしょうか? それを暴かなければトリックだ、詐欺だといくら唱えても、単なるレッテル貼りの中身のない批判になってしまうと思います。私も興味がありますのでぜひ教えていただきたいです。

 菅野氏の記事のなかで、強いて挙げるとすれば、下記の主張でしょうか。

“2013年に改正された高齢者雇用法により高齢者雇用の義務化が図られた側面を、一切考慮していない。”

 おそらく、2013年度から改正高齢者雇用法により実質的に定年が引き上げられているから、就労者数が増えるのは当たり前だと言いたいのでしょうが、私が記事のなかで述べていますが、雇用の受け皿、雇用のパイが大きくならなければ、いくら政府が高齢者の継続雇用を義務化したとしても、世代間での雇用のパイの奪い合いが発生するだけで、就労者数全体の数は増えません。

 企業の立場で考えるとわかると思いますが、利益を最大化するためには、当然企業は余剰な人員を削減しようとします。もし、景気が悪い状況で政府が高齢者の雇用を強制的に義務付けたりしてしまうと、企業側は余剰な人員をこれ以上増やさないために、若者の新規雇用や中途採用を絞ろうと考えることは想像に難くありません。

 企業に雇用を義務付けたら雇用が改善する。これがもし本当ならば世話はないですね。菅野氏にはぜひ失業問題に悩む多くの国に、この理論を説いて回っていただきたいと思います。

 また、菅野氏が参照記事として「65歳以上の就業者が激増中!アベノミクス100万人雇用拡大の実情」を紹介されていますが、この記事の内容は65歳以上の雇用が増加したことについて書かれたものです。しかし、菅野氏が指摘されている改正高齢者雇用法の対象者は60~64歳ですので、参照された記事とは無関係です。どうしてこれが参照記事となり得るのか、理解に苦しみます。参照記事の内容と法律の中身をきちんと理解された上で記事を書かれたのでしょうか。

100万人の新規就業者は意味がない?

 また、菅野氏は下記の指摘をされています。

“増加した分の労働者が劣悪な雇用条件で就労しているならば、「改善」とは俄かに断ずるわけにゆかぬだろう。この点についての検証は山本氏の原稿の中ではなされていない。”

 しかし、繰り返しになりますが、無職の方の所得はゼロです。就労者とは天と地ほどの差があると思います。この100万人の方は無職のままのほうがよかったと言うのでしょうか。100万人が職にあぶれる環境と、その100万人が職につける環境。どちらの労働環境がよいでしょうか。

 また、劣悪な雇用条件で働いているかもしれないと主張するならば、一つでもそのことを裏付ける統計データを提示されるべきでしょう。「民主党政権のときのほうが好条件で働いている人が多かった」――100万人の方が職に就けない状況だったのにそのようなことがありえるのでしょうか。「推測」で物事を語るのはダメだとおっしゃる菅野氏ならば、おそらく統計データをもとに論理的に証明することができるのだと期待します。

 ただ、私が5月2日に投稿した記事の目的は「労働力人口の転換点を明らかにし、民主党政権下とアベノミクス下での失業率の改善の中身がまったく異なることを暴く」ことですので、雇用の中身や賃金所得の詳細については省略させていただきました。詳細を説明することも可能なのですが、かなりのボリュームとなってしまうため一回の記事では書ききれません。次回以降解説する予定ですので、よろしくお願いいたします。

結局、反論になっていない

 私が5月2日に投稿した記事の論点や結論をもう一度整理すると以下のとおりとなります。

・民主党政権下でも失業率が低下しているが、労働力人口が減っていた。
・アベノミクス以降は労働力人口が増加しつつ失業率が改善している。
・民主政権下とアベノミクス以降では、失業率が改善していることは同じだが、その中身はまったく異なる。
・特筆すべきは「労働力人口がアベノミクス以降で上昇に転じた」こと。
・民主党政権下での失業率の低下は、ただ単に就職を諦めて就職活動を諦めた人が、失業者にカウントされなくなっただけである。

 この私の記事の論点、結論ですが、菅野氏の反論記事のなかできちんと否定されているでしょうか? まったく否定できていないと思います。そもそもですが、上記の結論は総務省統計局が公開しているデータの裏付けがある「純然たる事実」です。私はそのデータをグラフにして見せただけにすぎないため、総務省の公開しているデータに間違いがない限り、この結論は揺るがないでしょう。

 最後に、相手の結論を崩せていない記事を反論記事とは呼べません。結局のところ、菅野氏の記事はグラフの意味や目的を完全に見誤り、やれ「率」と「数」がどうとか、やれ「スケールの取り方」がどうなどと、どうでもいいところをだけをつついて、私の論点の核心にはまったく触れられていない中身が空っぽの記事と言えるでしょう。そもそも反論になっていません。

 それでもまだ私の主張が間違っているとおっしゃるのなら、データの正しい見方を説明し、きちんと「正しいグラフ」提示したうえで、「労働力人口がアベノミクス以降に上昇に転じた事実はない」と言えることを論理的に説明してください。ここまでできて初めて反論記事と言えるモノになると思います。<文/山本博一>

【山本博一】
1980年生まれ。経済ブロガー。ブログ「ひろのひとりごと」を主宰。医療機器メーカーに務める現役サラリーマン。30代子育て世代の視点から日本経済を分析、同世代のために役立つ情報を発信している。近著に『日本経済が頂点に立つこれだけの理由』(彩図社)。3児のパパ

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