「アベノミクスは失敗」に反論。どうみても雇用は改善している
2015.05.02
▼アベノミクスを貶める統計のマジック
2013年にアベノミクスがスタートしてから、失業率は4.3%から3.5%にまで改善しています。この数字だけを見てもアベノミクスによる雇用改善の効果は明らかであると思うのですが、それでも頑なに「アベノミクスで雇用は改善していない」と豪語する評論家やエコノミストがいまだ存在します。彼らは「失業率改善のトレンドはリーマン・ショック後から一定して続いているとこであり、アベノミクスの効果によって失業率が改善しているわけではない」と主張しアベノミクスを否定しているのですが、要するに今の失業率の改善は単なるリーマン・ショックの反動の延長であると言いたいようです。本当にそうなのでしょうか?
失業率推移のグラフ(図1)を見てみると、2008年のリーマン・ショック後に失業率は急激に上昇。その後、民主党政権、安倍政権と失業率減少のトレンドが続いています。確かにこれではリーマン・ショックからの単なる反動なのかな?と考えてしまうかもしれませんが、それは間違いです。同じ失業率の低下でもその中身は全く異なるものであり、実際にはアベノミクスにより雇用環境は大きく改善しているのです。
※<資料>はコチラ⇒https://hbol.jp/?attachment_id=37371
その失業率の統計のマジックについて順を追って説明したいと思いますが、まずは失業率とは何なのかについて説明しましょう。失業率とは労働力人口に占める完全失業者の割合であり、次の式で計算されます。
■失業率(%)=完全失業者/労働力人口×100
■完全失業者――15歳以上で労働する能力、意思があるが現在失業中であり、就職活動中の者
■労働力人口――15歳以上で労働する能力と意思をもつ者の数
要するに労働する意思と能力がある者の中においてどれだけの割合で失業者がいるのか?ということなのですが、当然ながら働く意思を失って、就職することを諦めてしまった人はこの統計の中には入ってきません。就職活動をしていない人、例えばニートなどは失業者にカウントされないのです。
それを踏まえた上で次の労働力人口の推移のグラフを見てください。
※<資料>はコチラ⇒https://hbol.jp/?attachment_id=37372
労働力人口が民主党政権下では下落しており、2013年のアベノミクス開始以降上昇に転じていることがわかります。つまり、民主党政権下でも失業者が減少し失業率が下がっていたのは事実なのですが、その中身はただ単に失業した人が再就職の困難さにより、就職活動を諦めて失業者にカウントされなくなっただけと見ることができます。このグラフ(図2)は労働力人口と完全失業者のスケールの幅をわざと200万人に揃えてありますが、労働力人口の減少幅と完全失業者の減少幅がほぼ同じであることがわかります。すなわち民主党政権時に減少した完全失業者80万人のそのほとんどが「再就職を諦めた人」だったのかもしれません。
はたしてこれを雇用の改善と見ることができるのでしょうか? 民主党議員の皆さん。「失業者を80万人減らしたのは民主党の成果だ!」などと言っていると、大恥をかくことになりますのでご注意ください。
さて、逆にアベノミクス開始以降は労働力人口が増加しています。これは、新たに就職活動を始めた(再開した)人が増え始めたということになります。つまり、アベノミクス以降では労働市場への参加者が増えるなかで、完全失業者数が減少しているということになるのです。これこそ胸を張って雇用が改善していると言える状況なのではないでしょうか? 数字の上では両者とも同じ「失業率の低下」ですが、その中身は全然違います。統計データを見て判断、評価することはもちろん重要だと思うのですが、ただ単に一つの統計指標だけを見て判断するには限界があります。今回のように失業率だけだと、本当に景気が良くなって雇用が改善したのか、景気悪化の影響で就職を諦めた人が増加してしまい、その結果失業率が改善したかのように見えてしまったのかは判断できません。
したがって、本当に雇用環境が改善しているかどうかを見るためには、失業率以外に労働力人口の増減にも着目する必要があります。それで初めて本当の雇用状況がわかってきます。「アベノミクスは失敗だ」と主張する人は意図的にやっているのか、それとも知らずにやっているのかわかりませんが、アベノミクス批判にはこのような統計のマジックを利用したミスリードが非常に多く散見されます。複数の指標を多角的に見て騙されないように気をつけなければなりません。
▼失業者は失業したままのほうがよかったのか?
また、アベノミクス批判のなかに「就業者が100万人増えたと言っているが増えたのは非正規雇用だけだ。アベノミクスで雇用改善はマヤカシである。」といったような批判があります。正社員しか認めないと言いたいのかもしれませんが、非正規雇用でも雇用は雇用です。アベノミクスによって、今まで無職だった人が新たに100万人も職を得ることができたのです。これをなぜ素直に喜べないのか、私にはまったく理解できません。それとも、非正規雇用者が100万人増えても意味がないとおっしゃるなら、この100万人はそのまま失業していたほうがよかったとでも言うのでしょうか? 所得がゼロの無職からプラスへの転換。これは非常に大きな変化だと思います。この新たに職を得た100万人が消費を拡大すれば、その消費が新たな仕事と雇用需要を生み、さらに雇用が改善していきます。
このまま失業率が下がると、企業は雇用を確保することが難しくなってきますので、賃金アップなどの雇用環境の改善を迫られます。安月給では雇用は維持できません。今、すき家などが苦戦している理由がこれです。そしてやがて、非正規雇用者を正社員化しなければ人材の流出を防ぐことができなくなって……といった順番で雇用は改善していきます。これが普通の流れであり、これ以外の雇用改善ルートを私は知りません。あったらぜひ教えていただきたいと思います。
よく考えてほしいと思うのですが、まだ景気回復の初期段階の労働市場に人が余っている状態において、企業は非正規雇用と正社員どちらを先に雇用しようと考えるでしょうか? 当然ながら雇用リスクとコストが低い非正規社員から雇用を拡大しようと考えます。なぜわざわざ、景気が悪くなった時に簡単にクビを切ることができない、雇用リスクの高い正社員を真っ先に雇うのか、理解できませんね。つまり、雇用の改善はまず非正規雇用からです。雇用の改善には順序が存在するのに、いきなり「正社員を増やせ!」とは無茶苦茶な要求ではないでしょうか。まあ、アベノミクスを貶めることが目的化している方から見れば、こんなムチャも通ってしまうのかもしれませんが、もう少し現場を、現実を直視していただきたいと思います。 <文/山本博一>
◆まとめ
・民主党政権下でも失業率は下がっているが、これは就職を諦めた人が増えていたため
・アベノミクス下では、労働力人口が増えながらも失業者が減っていた。これこそ真の雇用改善
・雇用の拡大はまず非正規雇用者から
・いきなり正社員を増やすことはできない
【山本博一】
1980年生まれ。経済ブロガー。ブログ「ひろのひとりごと」を主宰。医療機器メーカーに務める現役サラリーマン。30代子育て世代の視点から日本経済を分析、同世代のために役立つ情報を発信している。近著に『日本経済が頂点に立つこれだけの理由』(彩図社)。3児のパパ
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