メディアを賑わす「戦後初の国産ステルス戦闘機開発」、軍事の専門家はどう見ているか

 軍事アナリストの小泉悠氏はこう語る。 「そもそもこれらのニュースで”心神”と呼ばれているATD-Xは技術実証機です。実用戦闘機を開発できるかどうか、その技術を実証するための機体がATD-Xということ」  つまり、ようやく実証実験用の機体が試験的に飛行するだけで、実際に実用戦闘機を開発できるか否かはこれから決まってくることなのだ。 「第5世代戦闘機用エンジンの開発は、長年戦闘機用エンジンの開発を行ってきたロシアでさえ苦労しており、そう簡単なものではありません。HSEもようやく推力5t級の試作機にメドがついた段階ですが、アメリカのF-22やロシアのPAK-FA並みの大型戦闘機を作るなら推力20t程度の性能が必要となり、まだ開発作業には時間が掛かると思われます。小さいエンジンはスケール効果で推力重量比が高くなる傾向があるため、現在の5t級でアメリカ製を凌ぐ能力が出ていたとしても、最終的には機体重量との比が重要になるので、どのような機体に載せるか決まっていない現状ではなんとも言えないというのが正直なところです。また、ステルス性能についても日本はフランスの電波暗室を借りて実験を行っている状態であり、諸外国に比べて特別先進的ということはありません」  ただ、だからといってATD-Xによる実験からフィードバックされる技術を過小評価できるものでもない。 「すでに第5世代戦闘機F-35の導入が決定され、周辺諸国(中国、ロシア、韓国)でも第5世代戦闘機が遠からず就役すると見られる中で、日本がこれから第5世代戦闘機を独自開発する意義は薄い。それゆえ、ATD-Xをベースとして開発されるべきはむしろ第6世代戦闘機ということになりますが、経済的には日本単独開発は厳しい。そのため国際共同開発への参画が現実的な筋書きになるでしょう。こうなってくると、ATD-Xで開発された各種の先進技術が、こうした国際共同開発に有利な条件で参画する上での重要なファクターとなってきます。特に心臓部であるエンジンを国産できるという見込みがついていることは重要なんです。また、第6世代戦闘機の鍵となると思われる対ステルス探知、センサー同士の連携による最適攻撃、光ファイバーによる機体制御、レーザー兵器といった電子・材料工学面で日本はかなりいい勝負ができるのではないかと思います」 <取材・文/HBO取材班>
1
2
バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会