やっと価格安定期に入った牛丼業界。2015年、値下げの可能性は?
牛丼チェーンがようやく一息ついている。2014年、吉野家、松屋、すき家の各チェーンとも2回の価格改定を行ったが、円安と中国の需要急増で米国産牛肉の価格が高騰。この1年間で、牛丼に使われる米国産牛肉の卸値は約2倍に跳ね上がった。値上げすれども利幅は薄くなるばかりという状況下で、さらなる値上げも囁かれていたところ、年末から年明けにかけて米国産牛肉の価格がようやく一段落しているという。その背景と今後の予測を大衆食文化に詳しいライター・編集者の松浦達也氏に聞いた。
「牛丼の材料となる米国産牛肉の仕入れ値上昇は、円高の影響が大きい。加えて中国は2003年にアメリカでBSEが発生して以来、米国産牛肉の輸入を禁じています。それでもベトナムなどの第三国経由を通じた闇ルートでの輸入が横行していると言われていました」
ところが近年、闇取引に対する中国政府の締めつけが厳しくなったという。実際、アメリカからベトナムへの輸出量は2010年前後には年に6万トン前後だったのが、2013年にいきなり激減し十分の一の5000トンに。2014年も同じ水準で推移している。さらに2014年後半、アメリカ西海岸で港湾労働交渉が長引く間に湾物流の混雑や停滞が起きて、輸出貨物の船への積み遅れなどが続出。結果として輸出原料がダブつきはじめた。売り先がない上に物流が混乱したことで、現地での価格が下落したのだ。
「2月に海運会社などで構成するPMA(太平洋海事協会)と、港湾労働者のILWU(国際港湾倉庫労働者組合)との新たな5年協定が暫定合意に達したことで、物流の正常化にメドが立ちました。また2007年以降減り続けていたアメリカ国内の飼養頭数も、今年1月時点で8年ぶりに増加しました。下落傾向にあった牛肉生産量も2016年には底を打つと言われていて、米国牛全体としての供給は当面安定するのではないでしょうか」
ということは、2015年の牛丼業界は安定期入り、もしかして再び値下げの可能性もあったりするのだろうか。
「さすがにドル円レートが120円で値下げはないでしょう。USDA(米国農務省)では2015年の牛肉生産量は前年比で1.7%減少すると予測しています。それに牛丼には豪州牛など、他の牛肉も使われている。豪州牛は2014年の年末からの3か月で価格が約3割も上昇する暴騰ぶり。加えて2016年には総飼養頭数が過去20年で最低水準となるという見通しも出ています。豪州牛にとって最大輸出国であるアメリカからの買い圧力が強い上に、最近では日本が中国に買い負けるケースも出てきています」
着々と進行するグローバリゼーションのなか、1コインで釣りが来る一杯の牛丼価格の値づけには、かくも複雑な要因が……。すると松浦氏が「まだあります」と言う。
聞けば、最近インドの牛肉輸出量が急伸していて、ブラジルと並び世界最大の牛肉輸出国となっているという。そのインドで牛肉食の禁止が厳格化される動きもあり、輸出量がさらに増える可能性がある。直接影響がなくともまわりまわって日本の輸入環境に影響を与える可能性もあるとか……。
想起されるのは「風が吹けば桶屋が儲かる」や「バタフライ効果」という言葉。やはりたった一杯の牛丼の価格を決定づける仕組みは複雑である。
<取材・文/高田純造>
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