田舎には「命」に必要なものは何でもある【農家の窓から】
2015.03.30
脱サラして農家になったのが15年前。以前は、環境問題は自分にとって縁遠いものだと感じていました。しかし、無農薬栽培を続けるうちに、「自分だけが無農薬でも、川上の水が農薬まみれでは意味がないのでは」ということから環境の大切さが身に染みました。そして、農業を通して「自然にはかなわない」ということを実感したことから、自然への畏怖が芽生えてきました。
何より大きく変わったのは価値観です。
「宝石」「服」「食物」「水」「空気」。経済的な価値で並べるとすると、だいたいこんな順番になると思います。では命に必要な順番に並び替えるとどうなるでしょうか?
われわれ人間は、空気がなければ生きられない。水がなければ2日ももたず、食べ物がなければ3日もたたずに死んでしまいます。順番はまるっきり逆になるのではないでしょうか。
見方(価値観)が変わるとすべてが変わって見えます。もちろん宝石や芸術に価値を見出せるのは人間の特権ともいえるかと思いますが、それは物が溢れているからこそ感じられることなのかもしれません。
現在、世界では人口の2割が安全な飲料水にアクセスできずにいます。また国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の農地の約25%は水資源の枯渇につながる集約農業で「大幅に劣化」しており、このままの農法を続けるのは不可能との報告もあります。
もし災害など“イザ”という時、何よりも安全な水、食を選ぶのではないでしょうか。実際先の震災の時にうちへの問い合わせが一気に増え、対処できないくらいになりました。(こんな時のためにも普段からかかりつけの農家を……お奨めします)。
そして今、普通に安全だと思われていた空気もPM2.5などの大気汚染が顕著になってきて、あらためて当たり前に空気が吸えることのありがたさを感じます。
少し前ですが、このまま日本の人口が減ると、2040年には全国1800市区町村の半分の存続が難しくなると予測され大きな話題となりました。でもこれはあくまでも自治体の維持であり、地方自体はなくならないし、またあくまでも「今の価値観のまま進む」と過程してのことかと思います。
以前は「欲しいものは何もない」と思っていた故郷ですが、農家になってからしだいに「必要なものはすべてある」と気づき、故郷が大好きになりました。
農業が、文字通り「地に足をつけた」生活こそ本当の豊かさなんだということを教えてくれたのです。
今、UターンやIターンする人が増えているのも、そのようなことに気づいた人が増えたからではないでしょうか。違う価値観を持ってみる、別の定規で見てみることも、今の時代に必要だと思います。
【文/西田栄喜】無農薬野菜・風来店主、通称「源さん」。“日本一小さい専業農家”として石川県能美市で少量多品種(年間50種類ほど)の野菜を育て、インターネットを中心に野菜セットを販売。2013年より無肥料栽培に挑戦中
価値観が変わるとすべてが変わる
「地に足をつけた」生活こそ本当の豊かさ
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