年間150万人を集客。世界遺産「白川郷」の街おこしの戦略と戦術【後編】

 日本有数の豪雪地帯、岐阜県白川村。「白川郷・五箇山の合掌造り集落」がユネスコ世界遺産にも登録されている、国内はもとより海外にもその名の知られた村だ。年間に白川村を訪れる観光客数は150万人。村民数わずか1600人の村に、人口の約1000倍の観光客が訪れている計算になる。 ⇒【前編】http://hbol.jp/26161

底知れぬ白川郷の観光資源

 白川郷といえば、真っ先に「世界遺産の合掌造り」が挙げられる。だがわかりやすいブランドばかりが白川郷の価値ではない。同じ合掌造りでも、「日本の秘境100選」や「美しい日本の歩きたくなるみち500選」という異なる切り口から見た価値もある。人気アニメ『ひぐらしのなく頃に』で架空の村落として設定された雛見沢村は、実は白川郷がモデルとなっている。白川郷を「巡礼」で訪れるファンも少なくない。インターネット上には実際の白川郷の地図上に、雛見沢村の地名を当てはめた「雛見沢観光地図」なるものまで存在する。虚実ないまぜになる非現実世界にまで影響を与えるほど、この地にある観光資源のポテンシャルは大きい。

インフラの整備や企業との連携

 景観の素晴らしさは観光地にとって重要なファクターだが、現代の観光地は利便性も求められる。とりわけ通信インフラの充実は、利便性や緊急時の安全性の確保などさまざまな面から求められる。実は白川郷は、「白山スーパー林道」と言われる山間部で電波の入らない場所があり、役場から通信会社に電波状況の改善の申し入れを行っていた。その要望にKDDIが応え、昨年山間部を中心とした複数箇所に基地局を増設。白山スーパー林道のほか、道の駅・白川郷、荻町城跡展望台、合掌造り集落、白川村役場など村内の複数エリアで通信品質が向上したという。「世界遺産」を訪れる現代の観光客は、旅先で撮影した画像をFacebookやLINEなどで友人と共有する。通信インフラの充実は利便性、安全面に加えてPRにとっても重要なファクターだった。 インフラの整備や企業との連携 そうしたやりとりの過程で、企業のサービスも取り込んだ。auの定額アプリ・クーポンサービス「スマートパス」と連携し、白川郷平瀬温泉白弓スキー場では2人の来場で1人分のリフト券3000円分(休日)の無料クーポンや、温泉施設「しらみずの湯」の入浴料割引クーポンを発行。さまざまなチャネルで「白川郷」を届けるPR施策を行っている。

機能する、地域おこし協力隊

「地域おこし協力隊」の存在も大きい。現在、白川村には3名の協力隊員がいる。いずれも協力隊に参加する前は、広告会社やWeb制作会社など都市部の第一線で活躍していた人材ばかりだ。「地域おこし協力隊」自体は総務省の肝いりの事業で、各地で取り入れられてはいるが、うまくいっているケースばかりではない。受け入れる側の自治体と協力隊のどちらか、もしくは双方の課題が浮き彫りになり、機能していない例も少なくない。  ところが白川村の協力隊は前職の知見などを活用し、地域になかった気づきをもたらした。移住者ならではの視線で新たな施策を提案し、行動に移している。移住した当時は、便利屋だと勘違いされ、村民から用事を頼まれることもあった。だが彼らは快く引き受けながら誤解を解いてきた。隊員の一人は村内の空き家を買い取り、家族4人の住居とするためのリノベーションを行っている。ビジネスパーソンとしての能力が高い人材が、地域に腰を据え、どうすれば地域が活性化し、その仕組みを持続可能なスキームとして自走させられるかアイディアを絞り出した。全国各地の地域おこし協力隊では地域内で担当エリアをわけることも多いが、住民の不満と全体施策の板挟みになった例もある。白川郷では「移住コンシェルジュ」「マーケティング・PR担当」などタスクごとに役割を割り振った。  SNSなどを活用した広報戦略に、重要文化財である合掌造りを読書会や合宿などに貸し出して活用する。さらには移住・定住促進 施策や、滞在コンテンツの開発など、彼らの活動は多岐に渡る。白川村のPRと新規隊員の採用告知も兼ねて、東京で「白川村ナイト~ぶっちゃけ相談会」と銘打ったトークイベントも行った。「内」をスムーズに巡り、「外」とも密接に連携する。白川村の協力隊は今年、4名を増員して計7名になる。このこと自体、彼らが村に受け入れられ、高い次元で機能していることの証左でもある。
白川郷

写真提供/白川村役場

「地域おこし」が機能しはじめて、村民にとって地域おこしは「自分事」になりはじめた。観光客との触れ合いに加えて、「白川郷」のPR活動で生まれた外部との交流が「生活」とつながる実感も得られるようになった。「世界遺産」は確かにブランドには違いない。だが一方でわかりやすい「レッテル」や「タグ」は情報化社会においては諸刃の剣でもある。訪れる人々の満足が得られれば、ブランドパワーはより強固になり、村民の充足した生活にもつながっていくが、ひとたび悪い評判が広まれば尾ひれがついてひとり歩きしてしまう。  白川郷の世界遺産登録から20年が経った。四季折々に姿を変える風光明媚な秘境は、国内外の観光客を引き寄せてきた。合掌造りに象徴されるこの地の観光資源は潤沢だ。だが資源というものは、消費するだけでは枯渇する。「白川郷」の人々は、現在ある資源に強靭なサステナビリティを加えるべく、試行錯誤を繰り返している。それは「世界遺産」という枕詞を背負った村の挑戦である。 <文/松浦達也> まつうら・たつや/東京都生まれ。編集者/ライター。「食」ジャンルでは「食べる」「つくる」「ひもとく」を標榜するフードアクティビストとして、テレビ、ラジオなどで食のトレンドやニュース解説を行うほか、『dancyu』などの料理・グルメ誌から一般誌、ニュースサイトまで幅広く執筆、編集に携わる。著書に『家で肉食を極める! 肉バカ秘蔵レシピ 大人の肉ドリル』(マガジンハウス)ほか、参加する調理ユニット「給食系男子」名義で企画・構成も手がけた『家メシ道場』『家呑み道場』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)はシリーズ10万部を突破
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