ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

害は少ないけど陰謀論は陰謀論

 さて、ここから下の部分は定番の陰謀論でも比較的害の少ないものが並ぶ。月刊ムーの世界である。  先日、ムーの最新号がQアノン特集だと聞いて、どんなもんだろうとのぞいてみたが、その特集ページまでの見開きが 「最新UFOレポ:パキスタンにフーファイター」 「ブリューゲルの名画に恐竜が描かれていた」 「ポラロイド写真に謎の霊メッセージ」 「清田益章がデジカメ念写」 などと続き、何故かホッとした気分になった。  その中で、日本の人たちには今一つ事情がよくわかってないものをいくつか解説しよう。 ◆「#ブリトニーを自由に」  ブリトニー・スピアーズさんが、もう長らく精神的に不安定な状態が続いていることはご承知の方もいらっしゃるだろう。結婚と離婚と奇行と入院をくりかえし、それをパパラッチが追いかけまわして、また雲隠れとカムバックというサイクルを20年繰り返してきている。  ウィキペディアの日本語版のブリトニーの項目を見にいったら、そのスキャンダルも2010年くらいで書かれておらず、どうやら日本のブリトニーファンも哀れに思って編集するのをやめてしまったようだ。  ブリトニーは現在では成年後見人の保護下で暮らしており、父親が彼女の生活の面倒を見ることになった。が、これがブリトニーの財産目当てで、彼女は監視下で不自由な生活を送っているということになり、アメリカのセレブまでもが、ブリトニーを後見人から自由にしてあげるようにとのネットのハッシュタグ運動をはじめてしまったのである。  これは非常に微妙な問題で、実際にブリトニー自身も父親が後見人になるのを拒否しているのであるので、なんともいえない話ではある。  そんなわけで、このあたりからは陰謀論とも必ずしも言い切れないものが続く。UFOとかエリア51がここにあるのはご愛敬。

デタラメを強化する「本当にあった陰謀論」

 そしてここから先のいちばん小さな部分が実はもっとも問題で、陰謀論が世に溢れて出てしまうもっとも有力な理由となってしまう原因となるのだ。つまり、これは陰謀論だとされていたが、実は本当にあったこととわかったものだ。 「コインテルプロ」は、悪名高き、FBI初代長官のエドガー・フーヴァーによる違法な政治団体などの監視プログラム。もともとはアメリカ共産党を監視するための情報操作作戦だったのが、これがいつのまにか反差別団体やフェミニスト団体、反政府的な主張を持つということで、ジョン・レノンのようなアーチストやジェーン・フォンダのような俳優などにまで、スパイ活動や妨害工作、ある時は脅迫活動までしていたのである。  この手の話で実際にその陰謀がバレたものは多数ある。   「MKウルトラ計画」は、人間の洗脳プログラムのこと。SFなどでおなじみだが、これをアメリカは本当にやろうとしていたのだ。  なんとも残酷な非倫理的な人体実験ともいえるが、これに関してはもっとショッキングなものが「タスキギー実験」。  梅毒の治療方法の実験のために、アメリカの黒人たちが梅毒治療の実験材料とされて、長らく梅毒にかかったことを研究者は知りながら、そのまま治療されずに観察対象とされいたのである。  驚くべきことにこの実験は1970年代まで続いていた。担当していた研究者たちは「彼らは被験者ではあるが患者ではない」として治療しなかったことを弁解したというが、なんともはやな話である。  「モッキンバード作戦」はCIAによるメディアの情報工作作戦のこと。都合の良い情報を流して世論対策をするというものだが、これは日常的にどの政府もやっていることだろう。アメリカのメディアの「正義」に確たる裏付けもなく信用してはいけないということだ。  アメリカではないが、密接に関係があるのが「ナイラ証言」。  1990年にイラクがクウェートに侵攻した時に、クウェートから逃げてきたという少女が「イラク兵が病院で乳幼児を殺している」と証言し、イラク兵の残虐性を訴えたのだが、実はこれが芝居であったことが後に発覚。クウェート政府が雇った広告代理店が仕込んだプロパガンダであったのだ。  このナイラ証言の陰謀は、「目撃者」と感情的な情報のみでメディアが報道してしまう危険性と、戦争プロパガンダを企業が行うという二つの問題点を残したが、おそらくこれはまだ世界各地で続いているのではないかと思われる。どれがそれに値するプロパガンダかは、もちろん時間がたたなければわからない。感情的なだけの報道には要注意なのだ。 「PRISM」は、アメリカの全世界のネット監視システムのこと。2013年にエドワード・スノーデンの内部告発によって暴露された。Google、Facebook、アップル、マイクロソフト、YouTubeなど、そうそうたるアメリカのネット企業のメールなどの通信データが、実はアメリカ国家安全保障局(NSA)により、いつでも情報入手ができたという実態は全世界に衝撃を与えた。  最近、LINE社のデータが中国から閲覧可能だったことが問題視されたが、とうの昔からアメリカはもっと露骨にやっていたのだ。そればかりか日本、フランス、ドイツなどの首相までもが電話盗聴の対象だったということまでバレてしまったオマケつき。  当時のオバマ大統領は、どこの国の諜報機関でもそれぐらいはやっていると苦しい言い訳をしつつ、その活動を制限することにしましたが、これも今でも続いていることだろう。  これにより、エドワード・スノーデンは陰謀論者のなかでは、自分達の正当性を証明する英雄になった。

終わりに

 そんなわけで、ざっと陰謀論チャートを解説した。作者のアビー・リチャーズさんは日本でQアノン陰謀論が拡がっていることをよく承知で、これを日本人に見てもらえるなら嬉しいとのこと。  そんな彼女のTWITTERをのぞいてみると、今は「パステル・Qアノン」の解説を図画化していた。パステル・Qアノンとは女性向けの陰謀論を流布させているムーブメントを言うのだが、最近ではTIKTOK含めて、様々に英語圏では流通している。画像がオシャレで化粧品広告のようなデザインらしい。日本で流行ってきたら、また日本語訳でも出させてもらうかもしれない。その際はどこかでお会いしましょう。 「そのウサギを追って行くと、あなたは穴に落ちる。その時アリスに聞きなさい。そうすれば真実を知ることができるでしょう」-ジェフーソン・エアプレーン「ホワイト・ラビット」 <取材・文・図版/清義明 陰謀論チャート原作/アビー・リチャーズ>
せいよしあき●フリーライター。「サッカー批評」「フットボール批評」などに寄稿し、近年は社会問題などについての論評が多い。近著『サッカーと愛国』(イーストプレス)でミズノスポーツライター賞、サッカー本大賞をそれぞれ受賞。
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