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菅政権が東京五輪の開催を強行する構えだ。しかし、常識的に考えてコロナ禍での五輪開催は無謀である。
世界の感染状況は依然として厳しい。日本国内では聖火ランナーの日程に合わせて緊急事態宣言を解除した結果、わずか数週間で「第四波」に突入、開催都市である東京都をはじめ全国的に感染が拡大し、再び医療崩壊の危機に直面している。
しかし菅政権のコロナ対策は進んでいない。日本の検査数、ワクチン接種率は相変わらず先進国最低水準。東京五輪には約1万人の医療従事者が必要とされるが、医療逼迫・医療崩壊に拍車をかけるだけだ。
東京五輪が世界的にコロナ禍を悪化させるリスクもある。東京五輪を機に世界中の新型コロナウイルスが国内に流入し、再び世界に拡散されることになる。その結果、新たな変異種が生まれ、「武漢ウイルス」ならぬ「東京五輪ウイルス」が世界中の人々の命を脅かす恐れがある。
その他の問題も残ったままだ。安倍前総理が「アンダーコントロール」と嘘をついた原発事故の汚染水は近々海洋放出すると閣議決定。
招致委員会が「温暖で理想的な気候」と嘘をついた五輪の開催期間は、今年も猛暑になるとの予想。
7300億円で済むはずだった「コンパクト五輪」は1兆6440億円以上の「史上最高額の夏季五輪」に膨張。海外客の断念で数千億~1兆円規模の赤字が見込まれるが、そのツケを支払うのは国民だ。
五輪開催まで100日を切ったが、コロナ禍は収束せず、選手や国民の安全も確保できていない。菅政権は今こそ「勇気ある撤退」を決断し、毅然と東京五輪を返上すべきだ。
しかも、ここに来てさらなる問題が出てきた。北京冬季五輪が米中対立の火種となり、その余波が東京五輪に及ぶ可能性が出てきたのだ。
アメリカは今年1月、中国が新疆ウイグル自治区で「ジェノサイド」を行っていると断定、3月には米・英・カナダ・EUが中国に制裁を科した。これを機に、米国内では「ジェノサイドを行っている国の五輪に参加すべきではない」というボイコット論が強まっている。
その中で、米国務省のプライス報道官は4月6日、同盟国・友好国と協議して北京冬季五輪を共同ボイコットする可能性に言及した。その後、バイデン政権は「同盟国とボイコットについて協議したことはない」とプライス発言を修正したが、ボイコット論は依然として燻っている。
一方、中国は北京冬季五輪を国家の威信をかけた国策と位置づけ、習近平国家主席は「五輪開催は党と国家の一大事であり、国際社会に対する厳かな約束だ」と強調している。来年の秋には5年に1度の党大会が控えているため、北京冬季五輪は絶対に失敗が許されない。
当然、中国はアメリカのボイコット論に猛反発。4月7日、中国外務省の報道官はジェノサイドを否定した上で、「スポーツを政治化することは五輪憲章に反する」「国際社会は受け入れないだろう」と反論した。同日、習近平はドイツのメルケル首相との電話会談で「双方は来年の中独国交樹立50周年と北京冬季五輪を契機に……交流を推進するべきだ」と強調し、アメリカに同調しないよう牽制した。