それでは、日本はどうすべきか。
これまで日中両国は「東京五輪と北京冬季五輪の開催相互支持」を確認してきた。中国の王毅外相は4月5日の電話会談でも茂木敏充外相に「中国は東京五輪と北京冬季五輪の開催を互いに支持することを願う」とクギを刺したばかりだ。
だが、アメリカが北京冬季五輪ボイコットの可能性を示したことで、日本は米中の板挟みになった。「日本は北京冬季五輪のボイコットをどうするか」という問題は、そのまま「米中対立の中で日本はどうするか」という問題に直結する。
これまで日本は米中両国と良好な関係を続けてきたが、菅政権は惰性的に「対米追従・中国敵視」の方向へ流されている。この流れを決定づけかねないのが、4月16日の日米首脳会談である。本稿執筆時には詳細は明らかになっていないが、日米両政府は安全保障、気候変動、経済協力の3分野で日米が連携して中国に対抗する意思を示す共同文書を出す方向で調整を進めているという。
首脳会談では東京五輪も主なテーマの一つになる。菅首相はバイデンを東京五輪に招待する意向を示しているが、現在の感染状況では五輪開催は非現実的である。そうであれば猶更、菅首相はバイデンから開催支持を取り付けようとするだろう。
だが、これではアメリカに付け入る隙を与えるだけだ。菅総理が東京五輪にこだわればこだわるほど、アメリカに東京五輪を〝人質〟にとられ、無理な要求を突きつけられるリスクが高まる。日本は五輪開催支持と引き換えに、対中制裁への参加や北京冬季五輪の共同ボイコットへの協力を要求されるのではないか。
日本がアメリカに要求されるがままに対中制裁や共同ボイコットに同調すれば、日中関係は史上最悪の状態に陥り、日本の「対米追従・中国敵視」が決定づけられるだろう。日本は「東京五輪の開催」という菅政権のレガシーと引き換えに、「対米自立の可能性」と「良好な日中関係」という重大な国益を失う。本当にそれでいいのか。
東京五輪は国内政治・国際政治における権力闘争の道具になっているが、そもそもコロナ禍での東京五輪は非常に困難だ。権力の都合で人々の命を危険に晒す東京五輪が強行されることがあってはならない。東京五輪が米中対立における日本の運命を左右する危険性を考えれば猶更だ。
菅政権が今なすべきことは「東京五輪の強行」ではなく「勇気ある撤退」、すなわち「東京五輪の返上」だろう。
<文/月刊日本編集部 記事初出/
月刊日本2021年5月号より>