N国、長野県選挙区参院補選で「松本サリン事件」を揶揄する政見放送。迷惑行為がウケると勘違いしただけの集団に選挙を愚弄させてはいけない

神谷幸太郎候補 政見放送

神谷幸太郎候補 政見放送(You Tubeより)

 まさに今週、北海道2区で衆院補選、長野県と広島県で参院補選が行われているのだが、それぞれの選挙区に「NHK受信料を支払わない方法を教える党(旧・NHKから国民を守る党)」が候補者を擁立している。  選挙情勢を見るまでもなく、支持率が0.0%になることも珍しくない政党なので、これらの選挙でN国党の候補者が当選する確率は、オレンジを紙袋いっぱいに詰め込んで歩いていた広瀬すずちゃんが、うっかり坂道でオレンジをぶち撒き、コロコロと転がるオレンジを一緒に追いかけたことをキッカケに、小汚いオッサンである私と恋に落ちるというトレンディードラマ顔負けの設定がリアルで起こる確率よりも低いのだが、もし彼らに投票をすれば、たとえ当選をしなくても、その1票が次の衆院選や参院選では「政党交付金」に換わってしまうので、くれぐれもご注意いただきたい。  そんな中、新型コロナウイルスが原因でお亡くなりになった羽田雄一郎さんの弔い選挙となっている参院選の長野県選挙区で、N国党が前代未聞の不祥事を起こしている。深刻なのは、このシャレにならない不祥事を起こしたのが、現役の「立川市議会議員」だということである。

「松本サリン事件」を笑いモノにする政見放送

 不祥事を起こしたのは、N国党の「広報部長」だという立川市議の久保田学である。普段は「横山緑」という芸名で「ニコ生主(ニコニコ動画で配信をする人)」をしているのだが、2018年6月の立川市議選で、居住実態が非常に怪しいにもかかわらず当選。居住実態の問題に言及した私を立花孝志とともに名誉毀損を主張して訴えてきたが、地裁でも高裁でも「スラップ裁判」と認定され、最終的に原告である久保田学が被告である私に約94万円を支払うように命じる判決が言い渡されている。それでも市議や市民が追及しなかったため、今も現役の立川市議として活動している男である。  久保田学は、参院補選・長野県選挙区の政見放送(NHKラジオ版)で、立候補している神谷幸太郎の代打として出演。この政見放送は、このような形で始まる。 「どうも、長野県のリスナーの皆さん、おはこんばんにちは。今回、参議院長野県選挙区から立候補する予定の神谷幸太郎は、残念ながら、ここには来ておりません。神谷幸太郎候補者が長野に行くのが遠いからという理由で来れなくなったので、私、立花孝志の手下の横山緑がお伝えいたします。紹介が遅れました。私の名は、N国党の広報部長のホーリーネーム・横山緑と申します。けっして怪しいものではありません。まず、そこのラジオの前の奥さん。この横山緑の声が不快だったり、気持ち悪いと思ったら、すぐにNHKのラジオのコンセントを引っこ抜いて、ポアしてもらっても構いません」  長野県では、1994年に「松本サリン事件」が起こり、8人が死亡、600人近くが被害を受けた。戦争を除き、化学兵器を使って一般市民が無差別に殺されたのは世界初であり、今も凄惨な記憶として人々の心に刻まれている。そんな長野県で「ホーリーネーム」や「ポア」といった「オウム真理教」が使っていた独特の言葉を用い、ふざけた政見放送を展開したのが久保田学であり、NHK受信料を支払わない方法を教える党なのである。  忘れてはならないのは、これをやっているのが「国政政党」であり、それだけでなく、「現職の地方議員」だという点である。どこかの一般ピープルが中二病をこじらせてやった話ではないのだ。

迷惑がウケると勘違いした参院選の成功体験

 なぜ市民が殺され、多くの人が今も苦しんでいる長野県で、わざわざ「オウム真理教」をネタにした政見放送をするのか。それは、人に迷惑をかけることを楽しいと思える「炎上系YouTuber」と同じ精神構造だからだ。  社会常識があれば、被害者が聞いているかもしれない長野県の政見放送でオウム真理教をネタにすることなどないはずだ。たとえ居酒屋の会話でオウム真理教をネタに笑うことがあっても、政見放送でネタにするようなことは絶対にない。しかし、彼らには「社会常識」というものは一切ない。そんなものがあったら、今頃、うだつの上がらない生活からの一発逆転を狙ってN国党なんぞに入っていないのである。ただ、こうした社会常識の欠如が、勝手にプラスのものと解釈され、うっかり1議席を獲得してしまったのが、2019年の参院選である。  この選挙では、立花孝志をはじめ、多くの党員たちがふざけた政見放送を展開した。しかし、「こう見えて本当は、NHKの受信料問題で苦しむ被害者を助けている」とか「こう見えて本当は、NHKを内部告発をする正義感溢れるNHK職員だった」とか、「こう見えて本当は」の幻を見せられた人たちが期待をして、NHKから国民を守る党を国政政党にまで押し上げてしまった。実際は「こう見えて本当は」などということはなく、単なる「おふざけ反知性派カルト集団」だったというオチである。  今回の参院補選でも、ふざけた政見放送をすることで、「こう見えて本当は」の効果を狙い、新たな支持者を獲得しようとしている。しかし、これで集まってくる支持者は、オウム真理教のネタを見て「面白い」と感じるような社会常識の欠如した人間たちである。まともな有権者は相手にしようともしないが、まともでない有権者はN国党を面白がるのだ。だから、N国党はますます巨大な「反知性派カルト集団」に膨れ上がっている。
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