東京新聞の聖火リレー動画削除。その報道姿勢には批判より声援を

批判する気になれない理由

 それでもなお、私は東京新聞や原田記者を批判する気になれない。  そもそもの記事は聖火リレーがスポンサー企業に対して他紙には見られない批判意識を発揮した現地レポートだ。各スポンサー企業に批判へのコメントを求め掲載するということもしている。動画は削除されたが、こうした記事と写真は維持されている。  動画を削除する前から原田記者はTwitterで、「72時間ルール」を破ることのリスクとの兼ね合いも込みでの苦渋の判断であることを表明し、上記のようにルールそのものへの問題提起を含んだ記事を書いた。その記事では、こうも書いている。 〈IOCの担当部署に「公道で撮影された動画に対し、なぜIOCが公開の権限を持っているのか」と質問をメールで送ったが、31日正午時点で返答は来ていない。〉(※後にIOCからの回答が追記され、この一文は削除されている)  IOCも突っついて、その旨も記事にしている。  こうして東京新聞と原田記者は、ジャーナリズムの問題意識を発揮して、伝えるべき重要な内容をいくつも伝え、動画削除後もその姿勢を維持してみせている。なんだかんで、組織委やスポンサーを何発かしっかりぶん殴っているわけだ(もちろん言論で)。  記事で原田記者は、2月に組織委から「72時間ルール」が示された時点で抵抗すべきだったができなかったという反省と後悔を綴った。Twitterでは、こう書いている。 〈本来ならルールが提示された時点で新聞メディアが総出で対抗すべきですが、ご存知のように弊社以外は利害関係者になっていて、徒党を組むことができません。悔しいです〉(東京新聞原田記者のツイッター  他社との共闘も難しい場面で東京新聞の五輪取材全般を困難にするリスクを犯せないことを、部外者が批判するのは過剰だろう。  Twitterをざっと見渡すと、「戦ってほしかった」とするものや、組織委のルールに従った東京新聞を「自発的奴隷」などと呼ぶものもある。しかし上記のように東京新聞はきっちり戦った。戦う意思を維持している者を貶めてどうする。応援すべきではないのか。  動画を削除するかしないかに因われず、東京新聞と原田記者が伝えた内容とその姿勢に目を向けるべきだ。彼らは、報道の、ジャーナリズムの基本となるべきファイティング・スピリッツを示してくれた。  たとえ負けたとしても、とりあえずその時点で殴れる分だけは殴っておく。次にまた殴るために、再起不能になる事態は避ける。そのために殴りながらひとまず下がる。「今後も殴るぞ」と威嚇することも忘れない。  実に立派なケンカだった。勝手ながら、その姿勢には私自身(新聞記者ではなくフリーランスだが)も励まされたような気分にさせられる。  東京新聞や原田記者がこの先も必要な場面でカッコいいケンカができるよう、しっかり評価して皆で背中から支えるべきだ。他の新聞社や記者たちがうらやんでウズウズして、五輪問題以外も含め随所でカッコいいケンカが繰り広げられるようになるくらい、でっかい声援を送ってほしい。 <文/藤倉善郎>
ふじくらよしろう●やや日刊カルト新聞総裁兼刑事被告人 Twitter ID:@daily_cult4。1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)
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