東京新聞の聖火リレー動画削除。その報道姿勢には批判より声援を

公道取材を組織委が制限するのはおかしい

 動画削除の理由は、大会組織委がメディアに対して課している「72時間ルール」。放映権を持たないメディアが聖火リレーの動画をネットで公開する場合は、そのイベント実施から72時間までとするもので、2月に組織委による説明会で示されたという。  聖火リレーは公道での一般公開イベントだ。昨年、組織委が一時、一般市民が撮影した聖火リレーの動画をSNS等に投稿する行為を禁じると発表し、批判を受けて撤回した。当たり前だ。撮影・公開されたくないなら、誰にも見えない場所での秘密儀式にでもすればいい。  一般市民によるネット投稿は「解禁」されたが、メディア規制はそれ以降に示されたもので現在も生きていることを、上記の東京新聞は伝えた。原田記者はこのルールに従って動画を削除したことについて、記事でこう書いている。 〈しかしIOCは民間組織で気に入らないメディアは自由に排除できる。「ルール違反」を理由に私だけでなく、東京新聞の全ての記者を聖火リレーから排除しかねない。最も心配したのは五輪本大会での取材パスだ。もし申請が却下されれば、競技会場には入れず、選手の活躍を報じることはもちろん、今回のように大会の「闇」を内部から伝えることはできない。新聞社としては致命的だ。〉  理不尽なルールを設定する組織が理不尽なルール運用を行うことは想像に難くない。この懸念は当然だろう。  組織委は事実上「取材許可」を人質としてメディアを統制している。東京新聞の記事は、この現状を示し、問題提起するものだ。

確かに動画削除は好ましくはない

 東京新聞編集局のTwitterアカウントは3月28日、動画を削除する数時間前に、こう投稿した。 〈IOCのルールに則り、動画は28日夕方までに削除します。このルールは「新聞メディアが撮影した動画を公開できるのは走行後72時間以内」というもので、2月に報道陣に伝えられました。今回の件で抗議や圧力があって削除するものではありません。〉(東京新聞編集局のツイート  私は、削除すべきではないとリプライした。 〈「今回の件で抗議や圧力があって削除するものではありません」ったって、それじゃ「前もって圧力がかけられた状態なのでそれに従って削除します」でしょう。闘ってくれ、東京新聞。断固応援します。新聞記事は歴史書の最初の草稿です。写真も動画も同じです。この愚かな歴史をきちんと残して下さい。〉(筆者のツイッター  「新聞記事は歴史書の最初の草稿」というフレーズは、報道の自由のためにアメリカ政府と闘った新聞社の実話に基づく映画『ペンタゴン・ペーパーズ』に登場するセリフだ。  発表された報道は、後に誰かが俯瞰的な記事や評論の資料とすることで歴史の記録として検証、整理されていく。10年後、20年後、100年後の人々でさえ、新聞記事を歴史の記録そのものとして参照することもある。その時にその報道がどんな価値を持つのか、報じた人間自身も報じた時点ではわからない。  だから、動画はできることなら削除すべきではなかった。それは確かだ。
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東京新聞は「屈した」わけじゃない
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