アストラゼネカ製COVID-19ワクチンに欧州医薬品庁が緊急会見。ワクチンに必要な「信用性」を損ねるのは誰なのか?

Astrazeneca,Covid-19ワクチン

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 前回執筆終了とほぼ同時に、アストラゼネカ製COVID-19ワクチンについてEMA(欧州医薬品庁)と英国医薬品・医療製品規制庁(MHRA)による緊急記者会見が別個に、日本時間2021/04/07 23時過ぎから行われました。筆者はこれを偶然にCNNからBBCに切り替えていたためにリアルタイムで同時通訳(同通)付視聴できました。  本件は、ワクチンに付いての考え方の基本例題としてもたいへんに有用ですので速報記事として書き下ろします。

アストラゼネカ製COVID-19ワクチンに関する緊急情報

 これまでにも触れてきたように、アストラゼネカ製のCOVID-19ワクチンには、確率は小さいものの重大な有害事象があるのではないかという指摘がなされ*、EMA(欧州医薬品庁)による緊急記者会見が日本時間で2021/03/19の深夜に行われました。筆者は、流しっぱなしのBBC World Newsでその中継を見ていました**。 〈*アストラ製ワクチン、デンマークなどが接種中断 血栓との関連を調査 2021/03/12 ロイター〉 〈** 筆者のツイート  2021/03/19の時点では、「因果関係は不明だが、血栓の発生と死者がごく希に発生しているとの報告がある。一方でワクチン接種による利益は遙かに大きい。従ってEMAとしては、ワクチンのパッケージに血栓発生の注意事項を明記し、接種の継続とする。EMAは、この有害事象について科学的検討を継続する。」というものでした。  筆者はこれを妥当と評しています。  それからわずか20日後の日本時間2021/04/07深夜EMAは緊急記者会見を行い、アストラゼネカ製ワクチンの「副反応」として血栓の発生を認めました*。 〈*血栓は「アストラゼネカ製ワクチンのごくまれな副反応」=欧州当局 2021/04/08 BBC〉  このEMAによる緊急記者会見もBBC World Newsによって同通付で放送され、やはり偶然にCNNからBBCへ切り替えていたために視聴することができました。  EMAとMHRAによると、「極めて珍しい症例であるが、2千万人に接種して79人に血小板減少による血栓が発生している。そして、19人が死亡している。これらはワクチン接種のあとに発生しており、因果関係の実証は難しいが否定はできない」というものでした。また、これは治験では発見できなかったと述べていますが、治験規模は数万人ですので、百万分四(4ppm)の副反応が発見できなかったことは、開発期間が1年未満であることからもやむを得ません。  またこの副反応は、30歳以下の若い女性に偏在しているということです。  EMAは、ワクチン接種による利益はとても大きいために接種は継続するが、本人と医師の判断が出来る様にするためとリスク回避のためにアストラゼネカ製ワクチンには添付文書としてこの副反応を明記するとしました。また第一回目接種後に血小板が減少した場合は、第二回接種(ブースター)は行わないようにと提言しました。  全く同時に緊急記者会見を行った英国医薬品・医療製品規制庁(MHRA)は、アストラゼネカ製ワクチンは、接種によって得られる利益は極めて大きいが、30歳以下の女性には別のワクチン(ファイザー・ビオンテックやモデルナなど)を提供すると述べました。  これは極めて重大な記者会見で、これをリアルタイムで、しかも同時通訳付で視聴できたことは幸いでした。BBCの国際放送とCNNの国内放送が、時間によっては同通付で1026円というたいへんな安価でストリーミング放送されていることは、国内のCOVID-19情報が国策翼賛エセ医療・エセ科学デマゴギーで嘘にまみれ腐りきっている本邦では暁光といえます。筆者はこの15ヶ月間、CNNかBBCを常時流しっぱなしにしていて、プリキュアを観ることができません。  このアストラゼネカ製ワクチンに発見されたたいへんに珍しいとされる副反応は、それを回避することが不可能ではなく、また接種で得られる利益が大きいことから今回のEMAとMHRAの対応は妥当と考えます。

リスクと利益(ベネフィット)の比較考量

 ここでリスクと利益(ベネフィット)の比較考量を簡単にしましょう。  このアストラゼネカ製ワクチンによる「珍しい血栓」という副反応は二千万分の79例であり、4ppmの発生確率です。死亡は19例ですので1ppmの死亡率です。  この確率では、多くても10万人程度の治験では見えてきません。また、血小板の減少などの前兆事象も10ヶ月程度の開発期間での発見は難しいでしょう。通常のワクチンの開発期間は数年から10年です。これがOperation Warp Speedを代表とするワクチン迅速開発事業の盲点であり弱点です。  COVID-19ワクチンは、接種規模が極めて巨大です。例えば10億人がアストラゼネカ製ワクチンを接種するとして、接種回数は20億回ですので4ppmの副反応では8000人の血栓症が発生します。また致命率が1ppmですので、2000人が死亡します。これを無視することはできません。また現状では、COVID-19ワクチンはほぼ全人類が毎年接種することになる可能性が真面目に論じられています。年間に数万人や、数百万人規模の通常のワクチン接種では見えてこない低確率の有害事象や副反応がCOVID-19ワクチンではどうしても有意に発生してしまうことになります。  しかしアストラゼネカ製ワクチンを接種することによってCOVID-19による死亡や重症化は、ほぼ阻止できますし、感染して辛い思いをすること、後遺症に苦しむことを回避できます。医療への負荷も大幅に軽減できますし、社会への打撃も軽減されます。これらは大きなベネフィット(利益)となります。  英国は人口約6700万人ですが、これまでに約440万人が感染し、約13万人が死亡しています。それぞれの確率は、6.6%(感染累計)と1.9‰(死亡累計)です。死亡で比較するとワクチンによる利益は血栓という副反応による死亡の概ね2000倍と言えます。  この比率で利益があり、接種続行か否かかというと、勿論接種続行となりますが現在は、医療の進歩でCOVID-19による死亡は減少しつつありますし、接種規模が年間で少なくとも全世界で億単位に達しますので、接種による不利益は無視できません。その為、リスク回避のために30歳以下の女性には別のワクチンを提供する、本人と医師による判断が可能なように副反応を添付文書に明記するという事はたいへんに重要です。  BBCでは、自動車に乗っていて事故に遭う確率など、本来比較してはいけない本質的に異なるリスクを引き合いに出すといった誤った説明*を行うダメな専門家が早速現れていますが、単純に接種による利益が不利益の1000倍の桁であり、しかも運用によってリスクを大きく低減できる、回避できると具体的に説明すれば良いだけです。 〈*原子力PA(Public Acceptance社会的受容)における根本的に誤ったリスク比較として「べからず」の典型例である。このような説明は、誤りでありかつ、市民に強い不審を植え付けるだけで有害無益の典型となっている〉  一方本邦は、国策翼賛エセ医療・エセ科学デマゴギーに立脚した完全に誤った国策によって東部アジア・大洋州諸国の中ではワースト4の失敗国ですが、謎々効果*のためにCOVID-19エピデミックによる感染および死亡リスクは英国より遙かに低いです。例えば累計感染者数、累計死亡者数で評価すると約1.3億人の人口に対し約49万人(3.8‰)の累計感染者数、約9300人(72ppm)の累計死亡者数です。謎々効果によってCOVID-19の脅威は死亡で評価すると一桁から二桁小さなものです。 〈**モンゴル、中国、ミャンマー以東の東部アジア、大洋州ではCOVID-19パンデミックによる百万人あたりの日毎新規感染者数が米欧と南米に比して1/1000〜1/10である。またアフガニスタン以東でも百万人あたりの日毎新規感染者数が米欧と南米に比して1/10程度である。筆者は、2020/03以降この事実を「謎々効果」(謎々ボーナスタイム)と名付けている。全く同じ現象を後に”Factor X”と呼称している人たちもいる。致命率(CFR)は、謎々効果があっても米欧他と大きな差はない。モンゴルは、昨年11月以降の状態がたいへんに悪く、このままでは謎々効果が消滅する可能性がある。謎々効果は、アフリカ大陸でもほぼ全域で見られている〉
北米、南米、欧州、アジア、アフリカ、大洋州と日本、オーストラリア、韓国、ニュージーランド、台湾における百万人当たりの累計死亡者数推移(ppm線形) 2020/01/22〜2021/04/07

北米、南米、欧州、アジア、アフリカ、大洋州と日本、オーストラリア、韓国、ニュージーランド、台湾における百万人当たりの累計死亡者数推移(ppm線形) 2020/01/22〜2021/04/07/OWID

北米、南米、欧州、アジア、アフリカ、大洋州と日本、オーストラリア、韓国、ニュージーランド、台湾における百万人当たりの累計死亡者数2021/04/07時点

北米、南米、欧州、アジア、アフリカ、大洋州と日本、オーストラリア、韓国、ニュージーランド、台湾における百万人当たりの累計死亡者数2021/04/07時点OWID

アジア全体と、東部アジア・大洋州諸国における百万人当たりの累計死亡者数推移(ppm線形) 2020/01/22〜2021/04/07

アジア全体と、東部アジア・大洋州諸国における百万人当たりの累計死亡者数推移(ppm線形) 2020/01/22〜2021/04/07/日本は上から4番目で、失敗国に特徴的な曲線であるOWID

 死亡確率だけで見るとCOVID-19による死亡確率と接種による致命率は、72:1となり、利益は英国の2000倍から70倍へと大幅に小さくなります。従って、ワクチン接種についてのリスクと利益の比較考量は、米欧および南米と全く異なった結果となります。例えば本邦よりも遙かにCOVID-19対策に成功している豪州では、アストラ・ゼネカ製のワクチンを国内生産し、COVID-19ワクチン接種をアストラ・ゼネカに大きく依存する予定でしたが、50歳以下の人へはファイザー・ビオンテック製のワクチンへ直ちに変更しました*。 〈*AstraZeneca blood clot concern sees Australian government name Pfizer as preferred vaccine for adults under 50 2021/04/09 ABC Aus.  筆者が、本邦では、医療従事者、介護従事者、教師、保育士、法執行職員、行政現業職、65歳以上の介護利用者を最優先対象としておよそ2000万人から3000万人には緊急優先接種が必要で、残りの一億人は無理をして急ぐ必要はないと考えているのはこれが理由です*。台湾や豪州、ニュージーランドなどでは、更に緊急性は低下します。 〈*そもそもリスクと利益の比較考量以前に、本邦には米欧におけるマス・ヴァクチネーション(大規模ワクチン接種)を行う能力はない〉
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ワクチンの信頼を破壊するのは医療右翼と厚労省
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『日本を壊した安倍政権』

2020年8月、突如幕を下ろした安倍政権。
安倍政権下で日本社会が被った影響とは?
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