売れないラッパーはいない。『売れない売り方』があるだけだ。コピーライター・アスベストが考えるラッパーの売り方<ダメリーマン成り上がり道 #41>

 戦極MCBATTLE主宰・MC正社員が、MCバトルのシーンやヒップホップをビジネスやカルチャー面から語る本連載。今回は、MC正社員の古くからの盟友である元ラッパーのアスベスト氏との対談の第三回。MCバトルブームの直前にラッパーとしての活動をやめたアスベスト氏の視点から、近年のシーンを振り返り、コピーライターを生業とする立場からラッパーの活動の在り方も分析してもらった。

バトルブームを見て「やめなきゃよかった」と思ったことも

MC正社員氏(左)とアスベスト氏(右)

MC正社員氏(左)とアスベスト氏(右) <撮影/古澤誠一郎>

MC正社員(以下、正社員):「アスベストが2015年に入る前後にラップをやめたあと、戦極MC BATTLEはもっと大きな大会になっていったし、MCバトル自体もブームになったよね。それこそ『フリースタイルダンジョン』が始まったのも、アスベストがやめた少しあとだし(2015年9月に放送開始)。そういうシーンの変化はどう見てたの?」 アスベスト:「正直、自分に近いポジションにいた人が有名になっていくのを見ていて、『やめなきゃよかったかな』と思うことはあったよ。でも、もう別の仕事をしてたから、基本的には『もう俺とは別の世界の話だな』と思って見てたし、途中からはその成長がうれしいというか、『自分も頑張らなきゃ』と思えるようにもなったかな」 ――モチベーションにもなってたんですね。 アスベスト:「それにMCバトルのブームで有名になった人は、僕がラップをやめて以降も努力を続けてたわけですよね。僕が払っていない代償を払い続けた結果、その人たちは有名になったわけで、それを僕が羨ましいと思うのは筋違いですよね。  あと、『みんな頑張ってるな。俺も頑張らなきゃ』と思えるようになったのは、僕がラップをやっていたころの自分に負けないぐらい、今の仕事を頑張れている自負が出てきたからだと思います」 正社員:「アスベストは最近Twitterも再開したよね」 アスベスト:「それも今の仕事で一人前の活躍ができている自負が生まれて、アイデンティティの軸足が今の仕事に移ったからだね。Twitterのプロフィールも『昔は泥臭い系ラッパー、今は求人広告を書くコピーライター』と書き換えたし。仕事の成果も出せてないうちに、少しだけチヤホヤされてたラッパー時代のTwitterを稼働させるのはカッコ悪いと思ってたから」

「自己満」だと思われたくなかった

正社員:「あとアスベストは『戦極MC BATTLE』に関わっていた最後の時期は、MCバトルに飽きてたと思うんだよね」 アスベスト:「飽きてたね。これを言ったら怒られるかもしれないけど、『戦極MC BATTLE』には運営の手伝いをしながら出場してたんだけど、『手伝いだけにしてほしいな』って思ってた」 正社員:「『出たくない』って言ってたね」 アスベスト:「そうだね。最初はバトルも好きだったんだけど、やっぱり自分が本当にやりたいのは音源とかライブで。しかも当時はバトルに少し勝っても、それが自分の音楽活動のプラスになることがなかった。バトルで勝ってもアルバム売れるわけじゃないし、YouTubeの再生数伸びるわけじゃなかったんですよね」 正社員:「でもアスベストは頑張ったよ。あと、ちゃんとアスベストのバトルを見てYouTubeの曲やCDを買った人もいると思うUMBの2012年の東京予選でも、自分のバトルが終わったあとでフロアに出て、『CD売っています。買ってください』って書いたダンボールを被ってCDを手売りしたりとかさ。活動にもガッツがあったと思う。やめるのがもう少し遅くて、『フリースタイルダンジョン』に出たりしてたら、またちょっと将来が違ったかもね」 アスベスト:「そうかもね。でも最近、僕が昔に出したアルバムをサブスクで解禁して、あらためて自分でも聞いたんだけど、やっぱりラップが下手だし、『これ売れねえや』って思った(笑)」 正社員:「下手じゃないよ絶対。あのころ、俺らの身内で一番ラップがうまかったのはアスベストだったし、一番売れたのもアスベストだったんだから」 アスベスト:「それは凄く規模の小さい身内の話でしょ。あと当時、僕は『売れたい』って思ってたけど、お金がほしいというよりは『自己満だと世の中に思われたくない』という想いが強くて。ラップでお金持ちになれるとか、まったく思っていなかったからね」
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ラッパーからコピーライターへと転身
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