売れないラッパーはいない。『売れない売り方』があるだけだ。コピーライター・アスベストが考えるラッパーの売り方<ダメリーマン成り上がり道 #41>

「頑張っていれば何とかなる」くらいの発想しかなかった

――ラッパーから求人広告のコピーライターに仕事を変えたことで、ご自身に変化や成長を感じることはありましたか。 アスベスト:「ラップとは全然違いますけど、言葉を使ったクリエイティブでお金をもらえる状態になれたことは、ひとつ自信になりましたね。ただ、お金をもらう仕事では同時に責任も発生します。僕は求人広告を書くことが生業ですけど、お金を払ってくれたお客さんの会社に応募がなければ、僕の仕事は存在価値がなくなってしまう。その点で、『お金を伴うクリエイティブとは何なのかを学ぶことができました――似ている部分もあったけど、ビジネスはゼロから学んだんですね。 アスベスト:「あと求人広告も広告の一種なので、マーケティングなどの知識もひと通りの勉強したんですが、それも本当にためになりました。その知識を得たあとは、『僕は世の中のビジネスパーソンが普通に知っているマーケティングの基礎も知らないのに、「ラップで食えるようになろう」とか考えていてアホだったな』と感じましたね」 ――それまでとのギャップは感じませんでしたか? アスベスト:「今の仕事には当時のラップと同じくらいのやりがいを感じていますし、僕が書いた求人で企業が人を採用できたら、その企業のビジネスも成功に近づく。そして転職する人の環境を変える手伝いもできたことになる。そういう今の仕事と比べると、『これまで僕の出したアルバムって全然世の中に影響を与えられてなかったんだな』とも感じました」 正社員:「そんなことは絶対なかったと思うよ」 アスベスト:「少なからず誰かを元気づけられていたかもしれないし、ムダだとは思ってないけど、やっぱり小さいですよね。今の仕事は会社の力でブーストをかけてもらっているのもあるけど、世の中にそれなりの価値提供をできているという実感はありますね。  あと今の仕事に就いてからは、『音楽の世界では供給者の数はそんなに多くなくていいんだな』とも感じるようになりました」 ――今は音楽を作る側の人数が聴く側よりも多すぎると。 アスベスト:「そうですね。曲を作る人が100人いたら、世の中の多くの人に求められるのは上の何人かで、その人たちとリスナーのあいだで需要と供給が成り立っちゃうんですよね。それで残りのアーティストは自己満で活動することになる。もちろん、本人の目的が自己実現なのであれば、まったく問題はないと思いますが」

売れるには、売れるための勉強が必要

――シビアな話ですね。 アスベスト:「でも売れたい人は、売れるための勉強したほうがいいと思います。本質的にはYouTuberでもラッパーでもほかのビジネスでも、売れるための方程式って変わらないはずですから。それが夢破れた一人の男からできるアドバイスです。自分がラップやっていたころは、『売れるためにこうしよう』みたいな戦略を立てるクレバーさは一切なくて、『頑張っていれば何とかなる』くらいの発想しかありませんでした。本当に世間知らずだったと思います」 ――マーケティングなどを学ぶなかでは、「これはアーティストの活動にも応用できる」と感じたことが多くあったわけですね。 アスベスト:「ビジネスの世界では『売れない商品はない。売れない売り方があるだけだ』とよく言われますけど、それはラッパーも同じだと思います。僕は年間300社以上の企業の求人広告のコピーを書いてますけど、よほど勢いのある会社でもない限り、『その会社のいいところ』なんて簡単には見つからない。  でも、そこから物凄く小さな部分でもその会社のいいところを見つけて、『この魅力を打ち出せば、こういうタイプの人が会社を選んでくれるはず』とターゲットも考えれば、求人のコピーは書くことができるし、実際に応募にもつながります」 ――どの部分を魅力として打ち出すかを考えるなかでは、マッチングする相手を考えることも大事なわけですね。 アスベスト:「そうですね。『仕事では頭を使いたくない』という人も世の中にはいるので、給料が安い会社でも『仕事は単純作業だけ!』という打ち出し方をすれば、それが響くケースもあります。 物自体は同じでも、売り方・伝え方次第で送り手と受け手を結びつけることは可能なんですよね。そうした考え方は、僕がラッパーとして活動している時期には一切持っていませんでした」 ――売れているラッパーは、そうした売り方の戦略を自然に考えられている人が多いんでしょうね。 アスベスト:「天性でできている人もいると思いますし、売り方を知っている人に発見されて、そのサポートを受けて成長した人もいると思います。今はラッパーが自分で情報発信できる時代になったので、自分で戦略を立てられる人がより有利になっていると思います」 <構成・撮影/古澤誠一郎>
戦極MCBATTLE主催。自らもラッパーとしてバトルに参戦していたが、運営を中心に活動するようになり、現在のフリースタイルブームの土台を築く
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