台湾政府をも動かした「鮭魚の乱」の改名ブーム――背景に熾烈な「回転寿司競争」も

台湾で加熱していた「回転寿司競争」――スシローにとっては「安い広告費」だった!?

 さて、コロナ禍以前の台湾は日本よりも海外旅行に行く人の割合が高く、とくに最も近い外国の1つである日本は多くのリピーターを集めていた。台湾の人口は約2300万人であるが、2019年の訪日者は約500万人に迫る勢いだった。  それゆえ、コロナ禍のなか「海外旅行ロス」を感じている国民も少なくないようで、台湾国内で異国気分を味わうという「偽出国」も流行っており、例えば日本への偽出国として「日本統治時代に建てられた建物で『日本っぽい映え写真』を撮影する」というようなことも1つのブームとなっている。
台湾で流行語になっている「偽出国」

台湾で流行語になっている「偽出国」。「日本っぽい場所」も映える撮影スポットとして人気を集めている。(新北市瑞芳区・日本統治時代に建てられた黄金神社)

 そうした偽出国気分を気軽に味わえる場となっているのが、台湾にある和食チェーン各店。なかでも人気を集めている業態の1つが「回転寿司」だ。  台湾では近年「回転寿司競争」が過熱しており、台湾地場最大手で香港などにも展開している「争鮮SUSHI EXPRESS」(本社:台北市)は、持ち帰り専門店を含めると台湾国内に約230店舗を構える。それを追いかけるのが、日本勢であり関西回転寿司の雄「くら寿司(藏壽司)」(本社:大阪府堺市)と「スシロー(壽司郎)」(本社:大阪府吹田市)だ。
台湾地場最大手の「争鮮SUSHI EXPRESS」

台湾地場最大手の「争鮮SUSHI EXPRESS」(台北市萬華区西門町、写真の店舗は移転)。日系チェーンと同様に「新幹線直送レーン」が設置されている。

台湾地場最大手「争鮮SUSHI EXPRESS」のお持ち帰りコーナー

台湾地場最大手「争鮮SUSHI EXPRESS」のお持ち帰りコーナー。(桃園市桃園区)ここにも「鮭」の姿が。鮭4貫+海老4貫で80台湾ドル(約300円)とリーズナブルだ。

 とくに「くら寿司」は、台北など大都市の中心部のみならず「そごう」や「三井アウトレット」などといった台湾内の大型商業施設、日本でよく見かけられるようなロードサイド店など様々な業態あわせて約30店舗を展開。台湾東北部の宜蘭県にも店舗を構えるなど地方への進出にも積極的であり、今や台湾において「国内を代表する日系和食店」の1つとなっている。さらに、現地法人「Kura Sushi Asia」は2020年9月には台湾の証券取引所・タイペイエクスチェンジ(TPEx)に日系外食チェーンとして初となる新規上場を果たした。  一方の回転寿司日本最大手である「スシロー」は台湾に約20店を構えるものの、今年3月時点は台北・台中・台南・高雄など台湾を代表する大都市圏のみでの都市型店舗中心の展開に留まっている。そのため「改名者」は大都市圏に集中、さらに台湾メディアでは「『劉 鮭魚』に改名したものの間違えてくら寿司に行った人」がニュースとなったほど。くら寿司に比べるとスシローの知名度はまだまだ低いと思われる。  それゆえ、今回の「鮭魚の乱」は、スシローにとっては知名度の向上につながる「安い広告費」だったといえるだろう。(ちなみにスシローと間違えてくら寿司に行った人はSNS上で「名前だけでなく知能まで鮭になったのか」と言われているとのこと…)
台北駅前の一等地で繰り広げられている「スシローVSくら寿司」

台北駅前の一等地で繰り広げられている「スシローVSくら寿司」(台北市中正区)。日本国内でも両店が隣接する場所は殆どないと思うのだが……。どちらも1皿40台湾ドル(約150円)から。

安易な改名続出に台湾政府も苦言

 とはいえ、流石に「寿司のために改名」はやりすぎである。3月19日には台湾立法委員(国会議員)が「(手数料が安いなど)改名のハードルが低すぎる」「短期間での改名を禁止するべきだ」と苦言を呈したほか、台湾行政院の公共政策サイトには国民からも「安易な改名を禁止するように法整備すべき」という意見が寄せられているという。  大きな話題を集め、台湾政府をも動かすこととなってしまった「鮭魚の乱」。  台湾では「はま寿司」なども店舗を伸ばしつつあるほか、昨年9月に「金沢まいもん寿司(金澤美味壽司)」が台北市の百貨店・そごうに台湾1号店を出店させるなどまだまだ回転寿司チェーンの新規出店が相次いでおり、寿司競争自体はさらに過熱しそうだ。一方で、近く「第二の鮭魚の乱」が起きて、「愛台灣國慶鮑鮪鮭魚松葉蟹海膽干貝龍蝦和牛肉美福華君品晶華希爾頓凱薩老爺さん」が無料でホテルに泊まり、無料で松葉蟹や和牛を食べられる日は…永遠に来ないかも知れない。
台北市信義区にある「和牛」の広告

「この際ついでに」と、鮭魚とともに「和牛」を名前に入れた人も。果たして便乗キャンペーンは…きっと無いであろう。(台北市信義区にある「和牛」の広告)

<取材・文・撮影/若杉優貴(都市商業研究所)>
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体『都市商業研究所』。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken
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