次に移動傾向を見てみましょう。
台湾の移動傾向2020/01/13〜2021/03/21/Apple
台湾では、昨年3月から6月を除き移動傾向は通常とほぼ変わりません。公共交通機関は避けられているらしくやや低調ですが、自家用車と徒歩での移動は極めて活発です。旧正月である春節も昨年を上回る移動傾向を示しており、その上で国内=検疫の内側での新規感染者発生はほぼゼロです。
現状で台湾は、水際防衛とクラスタ戦略に完璧に成功していると言えます。
次にワクチン接種状況を見ます。
インドネシア、韓国、マレーシア、ミャンマー、日本、フィリピンにおける累計ワクチン接種率の推移(%,累計,線形)2020/12/15〜2021/03/21/これらの国は、東部アジア・大洋州諸国の中で状態の悪い国、悪かった国である。一回接種を一人と集計している。従って二回接種の場合、一巡して最高で200%となる/OWID
ワクチン接種は、合衆国などの先行国と比してアジア全体でも東部アジア・大洋州諸国でも一部の例外を除き低調です。但し、アフガニスタン以東のアジア諸国では、謎々効果の影響があって米欧に比してパンデミックの威力は小さくなっています。従って緊急性がたいへんに高い米欧に比して接種速度が遅いことはやむを得ないと筆者は考えています。
しかし本邦のワクチン接種の遅さはかなり異常で、東部アジアで状態の良くないであるインドネシア、マレーシアや、韓国と比較すると劣勢が目立ちます。つい先日までフィリピンと肩を並べていました。
但し、先週からやや接種速度が上がっており、3/19現在で約58万人となっています。メーカー指定通りの接種をするのであるなら、本邦でもブースター接種(初回接種3〜4週間後の二回目の接種)がこれから始まりますので、今の速度ならば医療従事者だけにワクチン接種が完了するのは、来年の6〜9月頃となります。勿論、今後速度は加速されると思われますが、現在の10倍の速度で医療従事者に夏までに行き渡る程度ですから、実際には現在の100倍近くに加速せねばいけません。
韓国では、アストラゼネカのワクチン接種が欧州で一時停止したこともあり、先週の接種速度が低調でしたが、EUでの接種再開決定により接種速度は戻ると思われます。
台湾では、現時点で接種が始まっていませんが、アストラゼネカのワクチン接種が間もなく始まります*。医療従事者や、検疫職員へは台湾であっても接種を急ぐ必要があると筆者は考えます。
〈*
台湾、アストラゼネカ製ワクチンを承認 来週にも接種開始 2021/03/18 ロイター〉
現時点では台湾などでは積極的に一般接種をする必要は無いと筆者は考えますが、来年から再来年にかけて世界経済が本格的に再開するときには全市民の接種が必要となる可能性は十分にあります。その時点では、あらゆる面で現在よりずっと優れたワクチンが実用化されていると筆者は考えています。筆者は、枯れた技術であるタンパク質抗原ワクチンに注目しており、その一つは本邦国内で生産が秋にも始まります。
最後にIHMEによる台湾における真の感染者数についての推定と予測を見ます。
IHMEによる台湾における真の感染者数の推定値と予測値の推移(人,感染発生日,線形,2021/03/17更新)2020/02/04〜2021/07/01/陰影部は、95%不確実性区間(信頼区間)/IHME
IHMEは、台湾について極めて楽観的な予測をしています。B.1.1.7による第四波は精々15〜18人/日の日毎新規発生者でという見込みで、第五波の襲来は予測されていません。
但し、95%不確実性区間(信頼区間)は、たいへんに大きく取られており、低い蓋然性ではありますが、昨年2月の第一波並みの警戒を求めています。
台湾の現状維持シナリオでの7/1までの累計死亡数は12名であり、今までの累計が10名ですからこの先3ヶ月あまりの犠牲は2人(人口比換算で本邦の11人に相当)であろうというのがIHMEによる見解です。同期間に本邦では、これまでに加えて約5800人が死亡するという予測です。
台湾と日本では、この先3ヶ月あまりで人口比換算後のウィルスによるキルレシオが1:530の比率というのがIHMEによる予測です。これが科学に立脚する合理主義とジャパンオリジナル・国策エセ科学・エセ医療デマゴギーという教条主義(ドグマティズム)の決定的な結果の差と言えます。
ここまでで統計とIHME予測に基づく日本、韓国、台湾の比較を行ってきました。次回は、今週末更新予定のIHMEによる評価と予測をご紹介して全体のまとめとします。
速報性を重視したため、本邦統計の異常についての解説は、その次、今月最後か来月最初になる予定です。
◆コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」新型コロナ感染症シリーズ45:第四波エピデミック(5)
<文/牧田寛>