このように微量のTHCは医薬品としてのポテンシャルを高める一方で、規制当局が懸念するTHCの陶酔作用は、CBDと一緒に摂取する限り問題となることはありません。なぜならTHCとCBDが同じ受容体を巡って拮抗するため、大量のCBDの存在下ではTHCの精神作用はブロックされるためです。微量のTHCでは公衆衛生上の問題が起きないこと、そしてCBDを含む大麻草の産業的な可能性が大きいことを考慮し、諸外国では現在THCの含有率が0.2~1.0%以下の大麻草の品種をヘンプとして、大麻草と別個に扱い、栽培や流通が自由化されています。
仮に日本でも同様の制度を導入すれば、T君のような子供達が現在、アクセスを妨げられている製品を合法的に使用することが可能となります。このような制度の恩恵に預かるのは、難治てんかんの子供だけではありません。イタリアではTHC0.6%未満のヘンプ製品の流通を許可したところ、睡眠薬や抗不安薬などの精神科関連の処方薬の流通量が1割程度、減少したと報告されています。
しかし仮に、日本で大麻使用罪が制定され尿中から微量なTHCが検出されるだけで罪に問われるようなことになると、こうした制度の運用は事実上不可能です。
有識者会議を主導する規制当局は未だ、大麻への厳罰姿勢を取り続けていますが、日本よりも多くの薬物問題を経験してきた諸外国では、薬物使用者を逮捕・投獄することは問題を悪化させるだけであって、本質的な解決にはつながらない事が明らかになり、薬物政策の方針を転換しつつあります。
手錠より支援を重視する薬物政策のあり方はハーム・リダクションと呼ばれ、ポルトガルを始めとする先進地域で大きな成果を挙げています。未だに大麻で逮捕する国は先進国では日本だけと言っても過言ではないでしょう。
規制当局が厳罰に固執する理由の一つは、全国に約300名いる麻薬捜査官の雇用を維持するためではないかという噂がありますが、これもヘンプと大麻を区別する制度を運用することになれば、品質管理のために現在よりも大きな雇用を生むことは間違いがありません。
今回の有識者会議が、1948年に作られた大麻取締法を時代に即した形に変更し、運用する好機となることを切に願っています。
<文/正高佑志>
熊本大学医学部医学科卒。神経内科医。日本臨床カンナビノイド学会理事。2017年より熊本大学脳神経内科に勤務する傍ら、Green Zone Japanを立ち上げ、代表理事を務める。医療大麻、CBDなどのカンナビノイド医療に関し学術発表、学会講演を行なっている。