オルトライトに乗っ取られたキャラクターの悲劇。「ネタ化」の怖さを描くドキュメンタリー『フィールズグッドマン』

一人歩きする表象

 作者であるマットが事の重大さに気づいたときはもう遅かった。ネットのミームは一人歩きする。彼が反差別や優しさを訴えるためにペペのイラストを募っても、それもまた結局は差別や憎悪の表現として描きかえられていく。  ついにマットは、ペペの葬式を描き、自らこのキャラクターを葬り去ることを決意する。ペペの葬式のネットマンガは全米のニュースで報じされるほどの話題となったが、それすら無意味だった。死んだはずのペペは、オルト・ライトによって勝手に復活させられ、差別表現に利用され続けたのだ。  その頃、ボランティアで支援してくれる弁護士が現れたため、マットは戦い方を地道な法廷闘争に切り替えることになる。差し当たり、ペペのキャラクターを使ってビジネスをしているオルト・ライトに対して、著作権法違反で訴えていく。オルト・ライトたちは「表現の自由」を主張するが、著作権法には敵わず、販売停止に追い込まれることになった。しかしそれでも、憎悪や差別とともに増殖するネットのミームをすべて食い止めることはできないのだ。

ネットのミームはなぜ危険なのか

 このドキュメンタリーでは、悪意を伴うネットのミームが安易に拡散されていくことについて、大きな問題提起がなされている。カエルのペペが差別主義者の象徴となったことの効果は何か。それは、彼らが発している差別や憎悪のメッセージの毒々しさが、ペペの可愛さによって隠蔽されることだ。一方で差別や憎悪のメッセージそれ自体は伝わる。これまでよりもマイルドに、しかし広く深く社会に拡散されていく。  トランプがカエルのペペを自身の表象に採用したとき、4chねらーたちは歓喜したという。それはまさに「ネットの現実化」であり、鬱屈とした思いを持ち、ネットの底辺でひたすら現実社会を憎悪し続けてきた「非モテ」オルト・ライト層の勝利だったのだ。  もちろんトランプ勝利の理由は、こうした「ネトウヨ」層の憎悪に還元できるわけではない。しかしその運動や主張の拡大について、悪意あるミームの拡散が役立っていたことは確かだろう。  ネットのミームは、差別主義者に逃げ道を与える。ペペを使った憎悪表現、差別表現への追及は「冗談だよ」「ネタだろう?」とかわされる。しかし憎悪や差別はそのまま残り、社会を侵食していくのだ。  日本でも、差別や憎悪を「ネタ」のつもりで拡散していく人たちは多い。弁護士ドットコムの記事「アメリカ分断に加担した『カエルのペペ』、アスキーアートの『モナー』と共通点」では、カエルのペペと、「2ちゃんねる」のモナーとの関連が指摘されている。直近では、2月の福島地震で「朝鮮人が井戸に毒を盛った」あるいは「バイデンが井戸に毒を盛った」などの「ネタ」投稿が相次いだ。「井戸に毒」という表現の問題については、「『バイデンが井戸に毒を入れた』は、なぜ差別扇動投稿なのか」に書いたことがあるが、このドキュメンタリーを観ると、さらにその問題性が理解できるだろう。
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