オルトライトに乗っ取られたキャラクターの悲劇。「ネタ化」の怖さを描くドキュメンタリー『フィールズグッドマン』
『フィールズ・グッド・マン』が日本公開されている。漫画アーティスト、マット・フューリーが生み出したカエルのキャラクター「ペペ」をめぐる、数奇な物語だ。
ペペは、作者マットとその友人たちの日常をモデルとして描かれた漫画『ボーイズ・クラブ』に出てくるキャラクターで、皆の弟分という設定。「Feels good man(気持ちいいぜ)」は、彼がパンツを全部下げて、尻がみえた状態で放尿することについて言ったセリフだ。
ペペのキャラクターの知名度を一気に世界的なものに押し上げたのは、2016年アメリカ大統領候補ドナルド・トランプだった。トランプをこのペペのキャラクターに改変したコラージュがSNSに投稿され、それをトランプ自身がリツイートしたのだ。これ以降、作者の意図に反してペペはトランプ支持者のシンボルとして機能し、ヒラリーを下したあの選挙戦の最中に掲げられることとなった。
トランプがペペとなったのは偶然ではない。トランプのネット戦略チームは、このペペがアングラなインターネットの掲示板でどのように機能していたかを見抜き、それを巧みに利用したのだ。
インターネットにおけるペペの表象は、当初は「Feels good man」というセリフが、何か気持ちいいことが起こったときのフレーズとして使われていたにすぎなかった。筋トレの写真や美味しいものをたべたときの写真、あるいは天を仰いで恍惚の表情を浮かべているオバマの写真のキャプションに「Feels good man」を使うといったように。
しかし、日本の「ふたば☆ちゃんねる」をモデルにつくられた英語圏のネット掲示板4chanでペペのキャラクターが流行しだすと、その方向性が変わっていく。少し愁いを帯びた表情のペペのイラストは、自分たちを「ニート」と自虐し、アングラな掲示板への投稿に救いを見出すようなネット民のシンボルとなった。
ペペが次第に人気となり、彼ら「非モテ」のネット民にとっての「リア充」たちがペペのイラストやペペに扮したメイク画像をインスタグラムに投稿するようになると、彼らは「俺たちのペペ」を奪われた気分になり、逆張りとしてより過激な方向に走っていく。たとえば、ペペにナチスやKKKの格好をさせたり、イスラム教徒やメキシコ系移民を殺させたりといった、憎悪や差別に満ちたイラストやコラージュがつくられる。それが過激であれば過激であるほど大量の反応があるので、リアクションほしさに表現はエスカレートしていく。
2014年にカリフォルニアで起こった銃乱射事件は、「非モテの反乱」だったとして4chanねらーを興奮させた。ペペを使った銃乱射イラストが相次ぎ、殺害予告、そして実行にまで至ったものまでいた。
トランプのネット戦略チームは、こうしたネット民たちは、オルト・ライトと呼ばれる質の低い右翼(日本の文脈でいうネトウヨに近い)と親和性が高いことを見抜いていた。彼らを使ってネット界を占領するために、カエルのペペはトランプのシンボルとなったのだった。
3月12日から「サンダンス映画祭2020」で審査員特別賞を受賞したドキュメンタリー映画
トランプ支持者のシンボル
利用されたネットのミーム
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