ロンドン再封鎖8週目。感染しなくてもみんな傷ついているのがコロナ禍の世界<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

天気が悪かったロンドン

「霧のロンドン」ならまだ情緒もありますが「ケムに巻かれたロンドン」では洒落になりません。かつてのような濃霧は稀ですが今週はずっともやった天気が続いていました。

コロナがトップニュースでない日でも

 毎朝の新聞、毎晩のTVでも、新コロ関連がトップニュースを飾ることが少なくなってきました。そのどれもが、あまり嬉しくない内容なので、さほど気持ちが明るくなるということもありません。が、それでも「コロナでない」というだけで、そこはかとなくホッとしている自分を発見します。  わたしたちはみんな、感染していない人でもこの病気に傷つけられているのだと思いました。  悲しいことだけど馴れもあるんですよね。昨年末は死者が500人を超えたと聞けば絶望的な気分になったものですが、ほんの2ヶ月の間に500人と聞けば今日は少なかったね! と浮かれてしまう人間に、英国人はなってしまったのでした。尤も今週の平均死者数は200人台にまで落ちていますから急激に社会が落ち着いてきているのは事実です。  2月25日、英国の危険レベルは最悪の5からロックダウンが始まる前の4にまで下がりましたが(*参照:BBC)5の期間にイギリス人が受けた心理的ダメージは計り知れないものがあったと申せましょう。  非コロナ関連でやはりミャンマーの軍事クー・デ・ターの話題。デモに参加した一般市民が射殺されました。この前段階にはアウンサン・スーチー氏の指示による(とされる)イスラム教徒迫害事件があったので事件の本質が見え難くなっています。  スコットランドの現職首相と前首相のセクハラ問題を巡る泥試合もすごいことになってきました。『マクベス』さながらのスコティッシュ・プレイの様相。これもまた複雑な背景があって全貌が可視化し切れないもどかしさがあります。  そんななかで比較的お気楽なトップニュースはといえばハリー元王子の奥様であるメーガンさんの「いじめ問題」があります。雛祭に報道されたのはもちろん偶然ですが、なんだかなあ……なお話。元王子の廃太子が意外なほどスムースに運び、メーガンさんとともにアメリカ国籍を取得することになったとたん寝耳に水のように騒がれだしました。流れが流れだけに非常にきな臭い匂いがします。  彼女のパワハラの有無は立証されていませんが、ふたりの結婚後〝側近〟となった人たちの離職率が異様に高いのは事実で、いろいろ齟齬があったんだろうと想像には難くありません。果たしてこれが「古い因習と戦う現代的なプリンセス」ストーリーなのか「王子をたらしこんだビッチのわがまま放題」ドタバタ喜劇なのか、いずれにせよしばらく目が離せません。  ツレはあまりこの手の三面記事的な話題を好みませんが、さすがに今回は気になるようで成り行き予想を楽しみました。わたしが「日本の諺に、火のないところに煙は立たない――っていうのがあるよ」と言うと、「英語もまったく同じ。No smoke without fire って比喩を使うよ」だそうで、へー、この感覚は世界共通なんですね。  アメリカの民主主義を揺るがせた陰謀論はまさしくこの煙を利用して民衆を扇動する術でした。言葉通り人心を「ケムに巻く」のです。 たくさんのひとたちがパニックになってレミングのように走りだしました。口々に「だって火のないところに煙は立たないっていうじゃない!」と叫びながら。  実はほとんどがただの発煙筒だったり、トランプ(ほか独裁者)御用達の催涙ガスだったりしたんですけどね。件の選挙の不正だってひとかけらのエビデンスも発見されなかった。けど煙はもくもくしてたので火種の存在を信じたサポーターが続出してしまった。いまだに、いる。日本にまで、いる!  あのね、教えてさしあげましょう。昔はあちこちに駄菓子を売る「当てもん屋さん」というのがありましたよね。そこには人差し指の先に付けて親指と摘まむような動作を繰り返すと煙が出てくる「おばけけむり」なる魔法の薬品がありました。あなたがたったいま引火をビビってる煙の正体はあれですよ。  ちなみにあんなにコロナを軽視して「神の恩恵」だとまで嘯(うそぶ)いた当の本人はホワイトハウスを去る前に夫婦揃ってこっそりワクチン接種したんですけどね。卑劣漢という形容がぴったりの人物です。というわけでトランプに義理立てしてワクチンに反対してた人もさっさとお打ちになられるが宜しいでしょう。

前倒しで進むワクチン接種と効果

我が街グリーンレーン

「優等生」から転落。劣等生どころか「非行」に走った我が街グリーンレーンが「更生」を果たした。なんだかヒューマンドラマのよう。コロナはコミュニティを侵す病気でもある。

 3月1日、とうとう英国は2000万人のワクチン接種を終えました。65歳以上は95%だから、ほぼ全員に近い数字。二度目も80万人が済ませています。申請すればキーワーカーなら若くてもすぐに順番が回ってくるようです。ついこの間まで9月末を〆切りに設定していたすべての成人への投与も7月末に繰り上げになりました。  ケンブリッジ大学付属のアデンブルックズ病院では無症状でも定期的にウイルスの検査をスタッフに行っています。その結果、ワクチン接種前1000人換算で中17人いた陽性キャリアが、1ヶ月で4人にまで減少(*参照:ケンブリッジ大学)。ワクチン以外に減少の要素はない。症状がなく、しかし陽性だった3/4以上の人が陰性に転じたのはその効果を証明するに充分でしょう。  一般的には最初の投与で感染リスクが70%減、次で85%減といわれていました。3月2日にイングランド公衆衛生庁(PHE)が公表したデータによると、防御効果は接種後3~4週間に出始め、重症化リスクが80歳以上で80%以上減ると仮定を裏付けました。  データは査読を受けていませんが、もはや「火のないところに煙は立たない」論理を持ち出してワクチンに異を唱えるのは無理があります。副作用トラブルも限りなく0に等しい。  ロックダウンが始まる時点ではロンドン、いや全英でも有数のホットスポットだった我がエリアも、3月1日に見つかった感染者は165人で、ロンドンのなかでも真ん中へんに落ち着きました。ショッピング・テリトリーだった隣町のイズリントンなんかベストスリーに入る安全安心の街になりました。  けれど、この日はいいニュースだけだったわけではありません。それはブラジル変異株の侵入。これは煙ではありません。とても小さいけれど強烈な火力を持つ火種が英国に投げ込まれたようなものです。  これまでに6例が検出されているのですが、全員がブラジルからパリ、あるいはチューリッヒを経由してきた帰国者でした。1月に日本でみつかったブラジル北部のマナウスからの旅行者が感染していた変異株と同種のウイルスとされています。  現在、海外からの渡英者は例外なく専用のバス移動で空港近くに用意されたホテルに10日間隔離されます。残念ながら最初のふたりは厳しい検疫制度が実施される5日前、2月10日のフライトだったので普通に自宅のある地方都市へ移動しました。また、次のひとりは検査登録カードを持ったままいなくなったので追跡できないとPHEが発表しています。  どうです。なかなかの恐怖でしょう?
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「ただの風邪」と嘯いていた大統領率いる「ブラジル」の行く末
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