大学入試改革、やっと見えてきた方向性

3月末に今後の大学入試の方向性が決まる

image 今年の1月に実施された共通テストでは、以前は数学と国語に記述式の問題の出題が予定され、英語については、民間試験を導入する予定でした。しかし、2019年の11月から12月にかけてこれらは中止になり、それを受けて萩生田光一文科大臣が「もう一度まっさらな段階から大学入試を検討する」こととし、大学入試のあり方に関する検討会議を昨年の1月から開催しています。  この会議では今年度中、すなわち令和3年3月末までに一定の結論を出す予定ですが、その結論が、文科省が今年の夏に予定されている「令和6年度に実施される新学習指導要領下での最初の入試の実施予告」の提言となるため、大変重要な位置を占めます。  さて、3月4日に第22回の会議が開かれましたが、今回からこれまでの意見をまとめていくことなっています。今回の討議は次のようになっていました。   総論的事項 (大学入学者選抜のあり方と改善の方向性)  この討議のために、座長代理の川嶋委員が、これまでに出た案をまとめ、この総論的事項は次の4つに分類されました。 (1) 大学入学者選抜に求められる原則 (2) これまでの教訓を踏まえた入学者選抜の改善にかかる意思決定のあり方 (3) コロナ禍での入学者選抜をめぐる状況変化 (4) 大学入学者選抜の改善の検討に当たっての留意点(種々の役割分担を踏まえた検討)  この討議のたたき台になった案は文科省のホームページにあります。これは、少し多いので、ここでは大切な部分を抜き出して、今後の方向性を探ります。

委員の立場の違いが鮮明になってきた

 昨年の後半あたりから、それぞれの委員の考え方の違いが鮮明化してきました。その要因の一つとしては、委員の立場の違いによるもので具体的には、国公立大学と私立大学の置かれている状況が大きく異なることがあげられます。これまでも、大学入試に関する利益相反について大学外部の業者を利用しないようにと提言しようとしても、私立大学の中にはすでに利用している事実もあるので、大学全体の足並みをそろえるのは難しいのです。  また、入試日程が一度ですむ国公立大学と何度も実施する私立大学では、「入試はすべて自前の問題を作り、記述式も含めるべき」と言ったところで意見の一致は見ません。このような状況ですので、すべての大学を含めた合意事項は必然と少なくなります。もちろん、無理に国公立大学と私立大学がすべてにわたって歩調を合わせる必要はありませんが、せっかく強く提言できるよい機会において、合意事項が減るのは少しもったいなくは思います。  この会議の委員の一人である芝井敬司委員(一般社団法人日本私立大学連盟常務理事)は、全国の私立大学の代表として参加され発言しています。この私立大学ですが、平成31年度の資料によると、全国の大学入学者610602名のうち、485506名が私立大学の入学者で、私立大学の入学者は全大学の入学者の79.5%(約5人のうち4人)を占めています。これだけ多くの学生を集める私立大学は入学者の選抜方法も多種多様であり、それを背負っての芝井委員の発言は、「全国一律」の決定事項に「待った」をかける傾向があります。  さて、立場の違いの件では、英語の試験に対する考え方があげられます。現在、この会議の委員の考えはおおよそ次の3つのいずれかに当てはまります。 1. 英語の試験を全員に義務化するのはおかしい。 2. 英語の4技能は大切である。これを民間試験を利用せず、その一部だけでも共通テストと個別学力試験で測るべきである。 3. 英語の4技能は大切である。民間試験を利用して、4技能すべてを測るべきである。  この中で、1.を推しているのは芝井委員ただ一人です。私立大学は、様々な大学があり、必ずしも英語を必要としない学生もいるので、一律に英語の試験を全員に課すのは反対の立場です。会議では、芝井委員が「抵抗している」というよりは、「孤軍奮闘」しているという方が表現としては正しいでしょう。  一方、3.を推している人もいて、それが確実なのは吉田晋委員(日本私立中学高等学校連合会会長)です。1.と3.を推す委員たちは「絶対に折れない」ような意思の固さが見うけられ、この会議としての合意事項としてまとまるのかが不透明です。  これまでの会議で、英語の民間試験の利用は厳しいことと、数学と国語の記述式問題の出題については共通テストでは出題せず、個別学力試験で出題すべきとすることが大勢ですが、どこまで一致して意見が出せるかは今後を注視していく必要があります。
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今年度の共通テストを振り返って
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