今年度の共通テストについては、コロナ禍にも関わらず問題なく実施されたことに対してはこの会議では概ねよい方に評価されました。また、問題の質についてもよく作られているという意見が出ていました。
まず、渡部良典委員(上智大学言語科学研究科教授)が共通テストの英語の問題について専門的な立場から意見を述べました。その後で、共通テストに関する必要な情報の事前公開が適切であったかについて指摘しました。
共通テストについては、会議の終盤に、小林弘祐委員(日本私立大学協会常務理事)も次のような疑問を投げかけています。
「テスト理論の専門家とか言語理論の専門家の意見も重要である一方、予備校の共通テストに対する評価が厳しいのが気になる。会話文が多く、多くの雑音の中から重要なものを拾い上げる能力を問うだけなのではないかとの指摘も気になるので、予備校の先生の感触も知りたい。」
発言の順序は逆になりますが、今後作成される最終報告に向けて末冨芳委員(日本大学文理学部教授)からは、ご自身の提出資料の中で、
「第一回共通テストに対する一定の評価の状況(とりわけ4技能評価の扱いが問題となる英語、記述式が見送られた後の国語、数学)を踏まえて結論を出すことが極めて重要」
とあり、第1回の共通テストを振り返らずに令和6年の共通テストの設計はあり得ないと強調されていましたので、今後、第1回共通テストの評価をオープンに議論することを期待します。また、頓挫した改革案がどのような点で問題であったかということも最終報告に記載すべきと主張しています。
学力の3要素を試験で問うことへの疑問-方向転換の可能性-
この会議の最後の方で、両角亜希子委員(東京大学大学院教育学研究科准教授)が、学力の3要素について指摘されたことは重要です。
これまでの会議で「この3要素を(試験の中で)すべて測りきることは現実的ではない」といった議論がありました。両角委員は、これをもう一歩深め、これらの3要素は大学に入ってくる学生すべてに対し、試験の中ですべて測りきらなくてもよいのではないか。何でもすべて測り切ればよいものではない、その当たり前がこれまで当たり前ではなかったのでそれ(3要素にこだわりすぎること)を報告書の中にいれるべきという指摘でした。
試験で、無理にこの3要素を意識した問題を作るとそれは問題として不自然になることはよくあります。新学習指導要領および新学習指導要領解説では、この学力の3要素を強く意識したものですが、試験では今後変わっていく可能性が出てきました。
(注) 「学力の3要素」とは次のようなものです。
(1) 基礎的・基本的な知識・技能
(2) 知識・技能を活用して,自ら課題を発見し,その解決に向けて探究し,成果等を表現
するために必要な思考力・判断力・表現力等の能力
(3) 主体性を持ち,多様な人々と協働しつつ学習する態度
<文/清史弘>